SHE SEE SEA
ラムネ
赤い目の少女
大学生になり,新しい環境に慣れてきたところで夏休みとなった.この期間にやっておきたいことがある.それはズバリ! 目の色が赤い人を探すことである.赤い目をもっと正確言えば,赤く”光っている目”と言うべきだ.カラコンや生まれつきでは出せない鮮血色の目を持った人間を会いたい.
今までも数人だけ見かけたことがある.しかし,友達や家族に「赤い目の人いたな」と俺が言うと,そいつらは居ないと言う.俺は嘘を付いていないのに.寝る前に赤い目の正体のことを考えてしまうと眠れなくなる.絶賛,不眠症である.
どうも大学に入ってから,急に赤い目の人が俺の視界に入ると強烈な存在感を表すようになった.
どうやら,神様は俺のことをしっかり見ているようで,棚ぼた式にターゲットの人物を発見した.
どうやって探すかをうじうじ頭の中で考えている内に,スマホに手が伸びてショート動画を見漁っていた時だった.ある地下アイドルが近日中に行うイベントの広告をする動画に,赤目の少女が映っている.公式サイトでその赤目の少女の名前を調べるとMary(メアリー)と書かれていた.ライブ会場は渋谷と近い場である.即刻チケットを買って今に至る.彼女の赤い目を肉眼で見られれば,満足.
涼しく快適な電車の中から出て,目玉焼きが作れそうなほど熱い道路を闊歩して,汗ダラダラの中で目的のライブを行う会場にやってきた.その会場は細い雑居ビルの地下だった.受付を済ませて,チェキ券を貰い,会場入りする.会場は思いのほか小さい.今いる階には飲み物を提供する小さいスペースと下る階段しかない.その階段を下るとステージがある.ステージの両サイドには大きなスピーカー,天井には30個くらいのライトがぶら下がっている.スピーカーから,謎のレゲエ的な音楽がリピートされているから眠くなる.
公演開始の1時間半前に着いてしまったので暇を持て余し,近くのネカフェに行きシャワーを浴びて時間を潰した.10分前くらいに会場に戻る.公演開始までスマホを触ろうとするも,昨日の夜に充電するのを失敗していたらしく,バッテリーが真っ赤だった.
時間になると会場のライトは消され,静寂が流れたのも束の間.けたたましい音量で音楽が鳴り始め,俺は少し耳を抑えてしまった.そんなことはお構い無しに,色んな衣装のアイドル達がドンドン,ステージに飛び込んでいく.
ついに肉眼で赤い目の少女を確認できた.音量がデカすぎて,アイドル達が歌っている言葉を認識できなかった.でも,返って赤い目の少女を見るのに集中できて良かったかもしれない.途中でメアリーの自己紹介が始まった.まだ新人なのか,緊張がこちらにまで伝わるたどたどしいものだった.自己紹介を終えて拍手をした人間は少ない.俺と,柵の前にいる2人組しか居ない.堂々とした自己紹介じゃなかったけど,この対応は厳しくないのか?
無事に公演が終わり,チェキ撮影回が始まる.観客達が一列に並び,写真を撮りたいメンバーを指名するシステムである.俺は公演が終わった後にモタモタしていたため,列の後ろの方で並ぶ.誰一人としてメアリーと写真を撮ろうとする人間が居なかったのだ.なんて殺伐とした世界.メアリーの気持ちになると,いたたまれなくなる.
俺はメアリーの指名した.いよいよメアリーとの対面が実現.メアリーは真っ赤の目で,前髪が見事なぱっつん,耳を隠せるくらい長いボブカットであった.来ている衣装は真っ白いドレスっぽい服だった.
俺がどうやって赤い目の現象を端的に説明するをか頭の中でまとめていたら,メアリーの方から開口一番にこんなことを言われた.
「あなたも,呪い持ち!?」
彼女は真剣な眼差しだった.俺達はスタッフに写真を撮ってもらい,真っ黒のチェキを渡された.しばらくしないと俺達の姿がチェキに浮かび上がって来ないらしい.
「呪いって誰かに五寸釘でも打たれるの?」
「貴方も気づいてるのでしょ? 人に無視されるの,私」
実に都会は冷たいね.
冗談はさておき,今のままだとイマイチ状況が把握できない.俺とメアリーの顔が,チェキに徐々に浮かびつつある.
「その赤い目は生まれつきなのか?」
少女は俺の質問に目の色を変えて(目は赤いままである),嬉しそうに
「やっぱり.貴方も同じなのね! 分かるんでしょ! 私の目が赤いって」
まったく意味が分からない.
「元々は黒目よ.スイッチが入っちゃうと,赤い目になって無視されちゃうの」
興奮気味に話してくれた.会話が微妙にかみ合わない.
「スイッチって具体的に何?」
「私が緊張する時とか,イライラする時とかになっちゃう」
彼女は右手に持っている油性ペンのフタを開ける.
「
「
「じゃあ,ホシローさんでいいね」
チェキに今日の日付とホシローと書き.俺の手に握らせた.
「今,赤い目なのは,イライラしているからだよな」
彼女は少し笑うと,今度は本当に目の色が変化して赤い目から黒目になった.
不明な点が多いが,本当に赤い目の人間に会えたんだ.
かなりスッキリ.今日はきっと熟睡できるであろう.まだ16時だから渋谷をブラブラしてから帰るか.
「さいなら~」
と俺はテキトーに挨拶を済ませて,出口に向けて足を進めた.
チェキを確認すると驚愕の事実に俺は気づいた.
いや,これは何かの錯視だろう.
「外に出たら,チェキの裏のアカウントに連絡してね,”青い目”のホシローさん」
そうじゃなかったらしい.
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