第11話 取引(カレン視点)
せっかくレオンの気持ちを再認識できていいところだったのに、視線の先には魔王ギルがいる。あの男、何度邪魔しに来れば気が済むんだろう。
「きっ、貴様、カレンから離れろ!!」
ギルが慌ててレオンに叫んでいるが、知ったこっちゃない。あ、でもまたレオンが狙われるのは困る。そう思ってそっとレオンから離れると、レオンは名残惜しそうな顔をして私を見てる。やだ、子犬みたいで可愛い……!
「……部下まで引き連れて何の用ですか。また国を荒らしに来たんですか」
ギルを睨みつけながらレオンは私を守るようにして手をかざす。さっきまで自分のことを弱いと言っていたのに、こういうところがやっぱり強いじゃない!ちょっと嬉しくて顔が綻んでしまう。って、いけない、今はそういう状況じゃなかった。
「私もいるのよ、大人しく帰ってちょうだい」
「いや、別に国を荒らしに来たわけじゃないよ、取引をしに来た」
取引?なんだろう、嫌な予感がする。
「この国を攻めていたことは実は俺は知らなかった、部下が俺のためにと勝手にやっていたことだからな。だが、かえって好都合だ。国を攻めない代わりに、カレンを俺に差し出してほしい。カレンをくれるなら俺はこの国から手をひこう」
ギルの言葉に、そばにいた部下が慌てている。せっかく滅ぼして手柄にしようとした国を魔王は簡単に手放そうとしているのだ、そりゃ慌てるわよね。
「カレン、お前が俺のところに来るというならこの国は見過ごしてやろう。この国からも、その男からも一切手を引く。二度とその男の前には現れないし命も狙わない。だが」
スッと目を細めてレオンを見つめるギル。その瞳には禍々しい殺気が含まれていた。
「お前が俺の元に来ないというのであれば、俺はその男を絶対に殺す。お前達が結婚する前にその男を殺してしまえばその男の願いが叶うことはないのだろう。お前がいないところで八つ裂きにして、心臓をお前に差し出そう。お前がいなければその男はただの人間だ。たとえお前がどんなにその男と一緒にいたとしても、一瞬の隙を見逃さない、俺は言ったことは絶対にやり遂げる、絶対にだ」
ギルは確かに有言実行の男だ。一瞬の隙をついてレオンを殺すなんてことは造作もないだろう、絶対にさせないけど。
でも、私がギルのところに行けばレオンもこの国も無事でいられる。大好きなレオンが、そしてそのレオンが大切に思うこの国が、それで魔王の脅威から解き放たれるなら……。
「断る」
キッパリと、レオンが言い放った。
「俺は、どんなことがあってもカレンをお前に渡したりしない。カレンもあんな奴のところに行こうなんて絶対に考えたりしないでね」
レオンは私の手をぎゅっと握って離さない。レオンは私の考えていることがわかるのかしら?いつからテレパシーを使えるようになったの??
「ほう、それではお前を殺すことになるな、それでいいんだな、カレン」
ギルがそう言って私をじっと見つめた、その時。
ヒュン!!!!
ギルの背後から槍が振り下ろされ、ギルはそれを間一髪で退けた。
「遅くなってすまない」
「師匠!!」
そこには、一人のメイドが槍を構えていた。
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