ハロウィンの夜

@poyatto

ハロウィンの夜


ミサはま女みたいな真っ黒な長いかみと目をした女の子です。せの高さは中くらいですが、やせていてひょろっとのびた手足はクモみたい。そして頭の左右、ちょうど耳から少し上に石みたいにかたくなっているところがあります。それはまるで小さな小さな角のようでした。いつもかみの毛でかくれてわからないのですが、おふろでかみをあらう時、長いかみをむすぶ時、さわるとたしかにあるのです。


ミサにはお父さんもお母さんもいません。親のいない子どもたちがいっしょにくらす『木の葉の家』というしせつにすんでいます。しせつでは生活を助けてくれる先生もそこでくらす子どもたちもみんな優しくて親切です。けれどミサは先生やほかの子どもと遊ぶよりも一人でいることが好きでした。いつも一人で外へ遊びに行き、夕方おそくまで帰りません。そして、その行き先はだれも知らないのです。


夕方、しせつへ帰らなくてはいけない時間になるとミサはいつもさみしくなります。帰りたくて、さみしくなるのです。でもその帰りたい場所は木の葉の家ではありません。どこへ帰りたいのかミサは自分でもわかりません。それでもミサは帰りたくて、さみしくてたまらなくなるのです。

(わたしはどこへ帰りたいの?)

血のように赤い夕陽を見ながらミサはいつも首をかしげます。


ある夕方、ついにミサは木の葉の家に帰りませんでした。高いやなぎの木に登って東の空に赤い月がのぼるようすをぼんやり見ていました。それからふと、思い立って町へと歩きはじめました。じきに日が落ちてミサは真っ黒な人かげとなります。何かにみちびかれるようにミサの足が動き、ある場所にたどりつきました。

それは今にもくずれてしまいそうなボロボロのビル。まどはあちこちわれていているし、ドアはななめにかたむいてすきまがあいています。もちろん明かりもついていません。まどのむこうに見えるビルの中は夜のやみよりも真っ黒です。

とてもだれかすんでいるようには見えません。けれどもミサは自然と口にしていました。

「ただいま」

ビルの中、暗やみからだれかが返事をします。

「やぁ、おかえり」

われたまどごしに青白い火がひとつ、ふたつとともり、ギギギィとだれかがさけんでいるような音をたててドアがひらきました。

ミサが一歩、ビルの中に入ると、そこにはなんとたくさんのモンスターがいました。

目が三つの三つ目小僧。骨しかないスケルトン。つぎはぎだらけのフランケンシュタイン。

そう、このビルはモンスターのたくさんすんでいるモンスターマンションだったのです。

ミサはやっと帰りたかった場所へ帰って来たのです。

ハロウィンの夜のできごとでした。

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