第8話 来夢くん頑張って
ボクはお母さんと一緒に来夢くんが入院している病院に、お見舞いに行ってみた。
病院は大きな総合病院で、たくさんの患者さんたちが座って待っていて、看護師さんがあっちに行ったりこっちに来たり、時々マイクで待っている人の番号を呼んだりしていた。ボクはそのいろんな人たちを見て、少しきんちょうした。
お母さんが受付の人に来夢くんの病室をたずねた。四階にいるみたい。
ボクとお母さんは花たばを持って、四階にいってみた。そして、ろうかの真ん中辺りにナースステーションというところがあって、そこで来夢くんの病室を聞いたけど、面会禁止になっていて誰も入ることが出来ない状態だった。
病室の前のいすに、来夢くんのお母さんが座っているのが見えた。
「おばさん、こんにちは。来夢くんのお見舞いに来たんですけど、病室の中には入れないみたいで…。これ、お花持って来ました」
「あら、未来くん、わざわざありがとう。せっかく来てくれたのにごめんなさいね。今来夢は抗がん剤っていう薬を使っていて、具合が悪い状態なの。病室は無菌室になっていておばさんでもなかなか入ることが出来ないのよ」
来夢くんのお母さんはそう言うと、涙目になって目が真っ赤になってきた。
ボクも涙が出てきた。来夢くんは病室の中に一人でいて、病気と戦っているんだ。頑張れ、来夢くん。ボクも応援してるよ。
ボクは心の中でそう言った。
「泣かないで、未来くん。来夢は早い段階で病気が見つかったから、治る可能性があるの。だから大丈夫よ。キレイなお花ね。ありがとう。おばさん、未来くんが来てくれて嬉しいわ。未来くんがお見舞いに来てくれたこと、来夢にも伝えるわね」
来夢くんのお母さんは泣きながら、にっこり笑った。
「お母さんもツラいと思いますが、どうぞ気を落とさずにいてくださいね。私たちは応援するしかありませんが、きっと良くなることを願っていますから」
「ありがとうございます…」
来夢くんのお母さんとボクのお母さんは、手をにぎりあってそう言った。
数日後、みんなで折った千羽鶴が完成して、クラスみんなが来夢くんに向けて寄せ書きを書いた色紙を持って、担任の渡辺先生とクラス委員の芽衣ちゃんが代表で病院に行った。
その時もやっぱり来夢くんには会えなかったみたいだったけど、順調に良くなって来ているって、来夢くんのお母さんが話していたみたい。
ボクは少しホッとした。
渡辺先生が言っていたとおり、来夢くんは一ヶ月半くらいしたら一時退院したって、来夢くんのお母さんから学校に電話が来て聞いた。
クラス中が「おー!」とか、「やったー!」とか言って、みんな大喜びしたんだ。この様子を来夢くんにも見せたかったな。
でもまだ学校には来られないみたい。来夢くんの家にも遊びに行くのはまだダメなんだって。
ボクは早く来夢くんに会いたかったけど、今は大事な時期らしいからガマンしようと思った。
ボクのかみの毛も順調に伸びてきて、今、短いおかっぱ頭っていうくらいになった。後ろは刈り上げてるから、目標の三十cm以上にはまだまだたりない。ボクは早く伸びろって時々頭を軽くたたいていたら、お母さんが
「そんなことしても早く伸びないわよ。それより頭が悪くなっちゃうわよ」
って言って、クスクス笑っていたんだ。
ボクは少しはずかしくなった。
あと、ボクが来夢くんにしてあげることは何かなって考えた時、授業中の勉強のノートを書いてあげることも見つけた。
だからなるべくていねいな字で来夢くんノートを作ってあげた。
ボクは勉強よりバスケットの方が好きだけど、来夢くんが少しでも勉強に追いついていけるようにすごく頑張って書いた。
その時はもう冬になっていて、風がビュービュー吹いて冷たかったけど、温かいジャンパーを着て、手袋とマフラーをして自転車で来夢くんの家にノートを届けたんだ。
「あら、未来くんよく来てくれたわね。寒かったでしょ?さあ、入って」
来夢くんのお母さんはそう言って、家に入らせてくれた。
「温かいココアどうぞ」
「ありがとうございます。いただきます」
「ノートいつもありがとう。来夢も未来くんの書いてくれたノートは見やすいし、未来くんがそばにいてくれる気がするって言ってるのよ。今日は寒さのせいか少し熱があるから、来夢には未来くんが来てくれたこと、ちゃんと伝えておくわね」
「はい。よろしくお願いします」
ボクはこごえた体を温めるために、ふるえながらココアをズズーっと飲んだ。体の中に温かいココアが入っていくのがわかって、少しずつボクの体もポカポカになっていった。
そして冬が終わりまた春が来て、ボクたちは二年生になった。
来夢くんは始業式には学校に来て、マスクをしてぼうしをかぶって、少し青白い顔をしていたけど、元気な姿をクラスメイト全員に見せてくれた。
そのあとまた何回か入院しなくちゃいけなくて、学校にはすぐには来られなかった。
でも来夢くんは入院、退院を繰り返しながら、体調の良い時は時々学校に来られるようになって、ボクたちとも一緒に勉強出来るようになって、ボクは嬉しかった。
そんな年月の繰り返しで来夢くんの体調も落ち着き、ボクたちはあっという間に六年生になる時を迎えた。
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