愛してたんだよ、本当に。

墨田海月(すみだみつき)

おれの話

 「愛してたんだよ、本当に。」

 お前は信じてくれないと思うけどさ。嘘だと思うだろ?もちろん、理想の恋愛だったとは思ってないよ。お互いにね。もっと上手く、愛を伝え合って時間を過ごせれば色々と違ったよな。


 お前と出会ったのは確か大学の入学式だった。おれは念願の医学部に受かって浮ついた気持ちで会場に入って、おれたち医学部のブロックと通路を挟んでお前がいたんだよ。看護学部はほとんど女子だったけど、お前を見た時に「この人だ!」って。他の女なんて見えなくなったのは今でも鮮明にに思い出せるさ。その後の懇親会ですぐに声をかけて、LINEを聞き出すまでは鮮やかな腕前だった(笑)

 デートして、3回目でお台場の夜景を見ながら告白したんだ。一瞬躊躇うような顔をしたけど、結局返事はOKだった。あの時はとても嬉しかったよ。女優かモデルか、若しくはアイドルか。とにかく顔が可愛かったお前はおれの誇りだった。初めて抱いた日の事は忘れられなくて。白い肌、大きな胸、それでいて腰回りは細くて。今まで抱いた女で1番は変わらずお前だよ。

 でも段々とすれ違いも増えてきたな。おれも反省してるよ。連絡返すのが遅かったり、デートの頻度も少なめでごめん。大学が忙しかったりして上手く予定合わせられなかったんだ。

 お前がおれに愛想尽かしてるのはなんとなくわかってたんだ。だけど男のプライドもあるからさ、こっちから歩み寄るのも恥ずかしかったりして。まさか振られて、しかもすぐに新しい男ができるとは思わなかったんだ。聞いたよ、新しい男は大手の会社のやつだって。お金も稼いでるんだろうな。当時、おれはまだ学生でバイトしながら日銭を稼いでるような状態だったし、お金持ってるやつは魅力的だよな。わかるよ、おれもそうするかもしれない。

 あれからもう4年くらい経つかな?今おれは外科医になって、命を救う誇れる仕事だし、金もある程度は自由になるんだ。だからって戻ってくるとも思ってないけど、お前との生活を想像してしまうこともあるんだ。馬鹿だよな。親にも結婚急かされて、明日お見合いに行ってくるんだ。仕事忙しくて出会いもないし、悪い人じゃなければ結婚しようかなって思うんだよね。

 色々言ったけど、本当に愛してたんだよ。


 おれは長く腰をかけていた隅田川沿いの階段から立ち上がり、川面に反射する街の光を眺めながら、家に帰ることにした。明日は朝が早いんだ。

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