荷物持ちと弟子、兼業してます
西條 迷
まるで魔法のような華麗な盗み
第1話
二十五歳を迎えた春。活気あふれる奴隷市場にて。
くたびれて薄汚れた服装に、痩せこけて不健康そうな顔をした茶色の髪の男はこうべを垂れて絶望の中にいた。
男は決して裕福とは言えない家庭出身ながらも、努力を重ねてやっとのことでみんなの憧れの職業、魔法省の職員になった。
しかしながら上司に失敗した責任をすべて押し付けられてしまい、弁明などろくに聞いてもらえぬうちに魔法省をクビになった。
魔法省職員は公務員にあたる。そこをクビにされたという烙印を押されてしまった男を雇ってくれる企業はなく、面接の要らない日雇いの仕事でなんとか食い繋いで生活していた。
たった一年で憧れの魔法省をクビにされ、再就職もままならない男はついていないなぁと嘆いたが、ある日それ以上の不幸が舞い降りた。
それは借金の取り立てだ。しかも国が管理している正規の金利機関のものではなく、俗に言う闇金。
毎日を必死に食い繋いでいるとは言ったが、男は借金などしていない。もちろん、闇金になど手を出すはずがない。
しかし取り立て屋が言うには、魔法省に就職した年に亡くなった両親がここの闇金に手を出していたらしい。
とんでもない負の遺産を残されてしまっていたのだ。
たしかに、裕福ではない家庭から良い学校へ通わせられるのはどうしてだろうと疑問に思ったことがあったが、まさか両親が闇金に頼っていたとは夢にも思わなかった。
「俺の人生終わったな……」
何十人もいる奴隷たちが目の前で無情にも売り捌かれていく。
男を含めた奴隷たちは誰も彼もが諦めの表情を浮かべ、希望の消えた瞳で俯いていた。
身ぐるみのほとんどを奪い取られ、挙げ句の果てにこうして奴隷市場に売りに出された男はせめて優しい人に買われたいなと思ったが、そんな優しい人が
「さあさ、お次は若い男だ! 荷物持ちに便利だよ!」
「よし、買った!」
「まいど!」
さらさらと、水が流れるようになめらかにやりとりが進んでいく。
男の購入に名乗りを上げた声は随分と高く、若々しかった。
男が顔をあげる。すると自身を買った女性と目が合った。
「よろしく頼むよ、荷物持ちくん」
「はぁ、よろしくお願いします……?」
奴隷市場という不浄な場所にもかかわらず、からりとした笑顔を浮かべた女性はなんの躊躇いもなく薄汚れた男に手を伸ばした。
男も反射的に手を伸ばして立ち上がる。
どうして奴隷市場に女の子がいるのだろうとか、これから自分はどうなってしまうのだろうなど思考は巡り続けるが、目の前にいる女性が暴力的な人には見えなくて、心の片隅で安堵の息を吐いた。
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