王位奪還への道のり

 1週間前。

 光差す門をくぐった先は、王の間だった。王の間には人の姿も気配もなかったけれど、城内はにわかに騒がしくなる。

 聞こえたのは、

「クロスト様がまた王に歯向かっておられる」

「城内での戦闘は、もう勘弁していただきたい!」

「ギルバート様は全く歯に立たないではないですか、一体何をなさっているのか」

「無理だな。軍司様は魔術では敵うべくもない」

 という大臣たちの声だ。

 フィア達は急いで王の間から脱出して、中庭に出た。

 中庭を抜けて、城門の外から城前広場に出る。フィアは思わずため息のような声をあげた。

「嘘みたい」

 ティアトタン国の街並みは、王都に瓜二つだ。城から眼下に広がる街並みも、礼拝堂や至聖所、貴族の住まいや騎士団、軍の屯所などまで、全ての場所が一致していた。

 色とりどりの建物の色も、テラスに飾られる花々、街路樹や街灯の色、全てが色鮮やかだ。

「文献では読んだが、ここまで瓜二つだとは思わなかったな」とゼクスは言う。

「あれぇ、王都に帰って来たの?」とアインと言い、

「うわー綺麗な街!これは本当にティアトタン?すごい!」

 とノインが言った。ノインは元々城の外に出たことがほとんどない。

「前戦争の影響がなくなったのね。私はこんなティアトタン国の都を知らない」

「物理的な部分以外でも、色々と異なっている部分もあるかもしれない」

「異なっている部分?」

「ああ」

 と言葉を切って、ゼクスが伺うような目を向けてくるので、フィアは例えば?と聞いてみる。

「例えば、テオドールが王ではない。あるいはフィア以外の王妃がすでにいるとか」

「王妃がすでにいる可能性は、高いわね。かの王様は寝屋がお好きなようだから」

 とフィアが皮肉満点に吐き捨てれば、

「あの熱心な刻印だけみれば。たしかにお好きなようにも、見えるな」

 とゼクスは言う。

「刻印?」

「前戦争がなかった場合でも、テオドールが王位を求める可能性は?」

「テオは前戦争でお母様を失くしているの。もし、それが王位を求めるきっかけなら、戦争がなければ、王位を求めていないかも」

「それは、トリガーであって動機ではない可能性があるな」

「トリガー?」

「そうだ。母君の逝去がきっかけだとしても。テオドールが王位を求める動機は、他にある可能性がある。例えば、フィアを護るためかもしれない」

「護るのは、囲うこと?城に閉じ込めることなの?」

「それは、愛し方の問題だな」

「あ、愛し方?」

「ああ。寝屋を重視し、毎晩愛を注ぐのまた愛し方だろ。触れて、伝える愛情表現もあるかもしれない。そして、自分が矢面に立ち痛みは引き受ける、そういう愛し方もある」

 ゼクスがこうして急に情熱的な物言いをしてくるときに、フィアはいつも戸惑ってしまうのだ。

「どうして、テオの心を理解できるの?」

「さあ?フィアが男心に疎いだけでは?」

 愛し方。そんな言葉が出て来るとは思わなかった。

「ゼクスの、愛し方は?」フィアが思いついたことをそのまま口にすれば、ゼクスの目に鋭い光が入り、

「最終的にすべていただく。そこまでの道のりは前戯だ」とさらりと言う。

「え?ぜん?」

 何か聞き捨てならない、凄いことを言っていたようにも聞こえたけれど。

「では、聞き込みをしよう」とすぐに話は切り替わったので、フィアは自分の気のせいかと思った。

「そうね。状況を知りたい」

 アインは広場を駆けまわっており、周囲の視線を集めてしまっている。そして、ノインは興奮のあまりにエナジーを放出しすぎて、ドラゴンの尾が出て来てしまっていた。

 広場から眼下に臨める美しい街を見て、フィアは思う。

 ――――この街を、国を護らなければ。

 ティアトタン国を制圧してみせなさい。そう姉達の姿をとった母は言っていた。

 仮にテオドールから王位を奪えたとして、それで国を制圧したことになるとは思えない。

 無理やり力で押さえつけるやり方では、争いの種は消えない、とフィアは思うからだ。

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