the MYTH

@renka_myth

[Episode.0-The Beginning]

───狭く薄暗い、どこかの廊下。


「ま、待て!貴様、何をしようとしてるのか分かっているのか!そんな事をすれば、貴様の立場も…」

「黙れ」


床に這いつくばり無様に命乞いをする壮年の男に対し、赤毛の"青年"が躊躇もなく詰め寄る中、冷たく放たれた慈悲なき一言が周囲の空気を刺し貫くように響く。

自責と、後悔と、何より───怒り・・が、"青年"のその身を再び動かすに至った。


「待て…待つんだ!やめ…やめろォ!」


───壮年の男は一層激しく叫ぶが、"青年"の冷たく響くヒールの音は容赦なく、止まることなく近付いていく。

ただ怒りだけを纏った姿は、逆光で表情を読み取ることすらできない。


「わ、ワシが悪かった!詫びに貴様の望みをなんでも叶えてやる!なんでもだ!名誉か?財宝か?上等な娼ならいくらでも番えてやる!だから、だからワシの命だけは───」


───響かない。何も、響いてこない。

───それどころか。


「───ならば、問おう」

「ひ…」

貴様を生かす事で・・・・・・・・私に何があると言うのかね・・・・・・・・・・・・


声は怒気を孕み、そこで───ヒールの音が、止まる。

逃げていた男に、もう後退りする場所はなかった。


「貴様はこの天界・・の癌だった。そう気付くのが、決めるのがあまりにも遅すぎた」


"青年"の殺気が膨れ上がり、背からは赤き翼が展開される。

それで、とうとう男は思い知る。


───赤嵐が・・・来る・・


「あ…あぁ…な、南泉なんせん田舎武士・・・・風情が………」

「往生際の捨て台詞がそれか。覚えておく価値もない」

「ひ…た、すけ…死にたく…ない───」

「───南泉流剣術・抜刀一閃。《儚桜ゆめさくら》」


───"青年"が腕を真横に薙ぐと、男の首が胴から離れ…間もなく鈍い音を立てて床に落ちた。


「…他愛、なし」


───目に見えないほどの速度で放たれた剣術。その刃は、"青年"自身の神力・・で顕現させた神光の刃。太刀筋から舞い飛んだ血飛沫が、まるで赤い桜の花弁のように空中に散った。

───納刀の所作で、刃に与えていた神力は"青年"の元へと戻る。


「最早これまで。腐りきった天界は、私の全てを賭して正そう。それが───私に遺された最期の使命だ」


───遺された男の骸に踵を返し、"青年"はその場を後にした。


「(終わらせなくてはならない───早急に。それが、この世界の為なのだから)」


冷たく響く、ヒールの音だけを残して。

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