4話 ごめん、サブタイ統一するつもりだったけどネタが尽きた
「わたし、こんな尊い空間に存在してもいいのかな……?」
場所を移しリビングの炬燵を三人で囲んでいると、露草がまたわけのわからないことを訊ねてくる。
「別に、いいんじゃない」
私も、こいつのあしらい方がだんだんと分かってきた。露草とはまともに取り合ってはいけない。じゃないと私までおかしくなってしまう。
「……いいんだ。……そっか……いいんだぁ……」
感極まった表情でそうつぶやく露草。なんだこいつ。
「そういえば日葵ちゃんも露草も学校はどうしたの? 今日は火曜日なはずだけど」
「今日は水曜日ですよ。アイリス姉さん」
「……そうだっけ」
別に私がニートもどきだから曜日感覚がないわけではない。あちらの世界にも曜日はあったのだけれど、私は冒険者なんてものをやっていたからもともと曜日感覚はなかったわけで。嘘じゃない。それはそうと、今日が水曜日なら私は水ダウを録画しなくてはならない。ジャンプラとマガポケとマガジン本誌もチェックしなきゃ。やること盛沢山である。
「私は今日校長先生が誕生日らしく記念日で休みなんです」
「へえ、誕生日。おめでたいね」
「……え。アイリスたん……?」
すると露草が正気を疑うような目で私を見てきた。さっきから正気じゃないのはお前だ露草。
「なに」
「……アイリスたんって意外と天然……」
なにやらぶつぶつと言っている。
「……そういう露草はズル休みなの?」
「えっ、わたし? わたしはほら、有休をとったんだよ」
『読心魔法』を発動。
――ズル休みだけど。
「うそ」
「なんでわたしだけ!?」
わたしだけって、だけとはなんだだけとは。日葵ちゃんが嘘を吐いているとでも言いたいのかこいつは。日葵ちゃんは良い子で愛嬌があって清楚だ。露草とは違って嘘なんてつかない。ついでに私も。
「ところでアイリス姉さん。露草さんとはどういうお知り合いなんです?」
そう言って、小首をかしげる日葵ちゃん。可愛い。
「ええっと、こいつとは――」
「わたしとアイリスたんはね? わたしがたまたま山の頂上でワンちゃんに襲われていたところを――」
ちょ、それ以上は――!!
私は咄嗟に露草の背後に回り両手で口をふさぐ。
「――ぅむぐっ……!?」
変な声は出したものの何故か抵抗はしない。
「…………日葵ちゃんには異世界や私の魔法の話なんかは秘密にして」
そう露草に耳打ちをする。
「……ふぇっ!?」
一方の露草はといえば、なぜか頬と耳が紅潮し目が左右に泳いでいる。……ちゃんと聞いているのか。
「……ワンちゃんに襲われていたんですか?」
「……え? そ、そうそう。露草はドジでマヌケでアホだからたまたま山頂でしかも何故かシュールストレミングを食べていたものだからその臭いを嗅ぎつけた犬に襲われてて。それをまたたまたま山頂を散歩してた私が助けてあげたの」
「し、シュールストレミングを食べてたんですか!?」
私と露草は素早く首肯する。というか私が露草の頭を縦に振る。
「……そ、それはそれは、災難でしたね」
な、なんとか誤魔化せただろうか。日葵ちゃんは私がこちらの世界に来て出来た初めての隣人兼友人だ。
日葵ちゃんはそんなことはしないだろうとは思うけれど、下手に異世界の話をして私を拒絶してほしくはない。
ていうか、露草。さっきからまたもやフリーズしたかのように呆けて動かなくなってしまった。ちゃんと私の話を聞いていたのか? もう少し釘を刺す必要がありそうだ。
……ちょうどいい。こいつに確認したいことがあったのを思い出したし。私は露草を解放し、元いた場所に座りなおす。そして、露草に向かって『思念』を飛ばした。
『日葵ちゃんには異世界のことは絶対に秘密。約束して』
「……」
「……」
ん?
『聞いているの? 返事をして。あなたが「思念」を使えることも、何故か凄い量の魔力を持っていることも全部知ってる』
「……」
「……」
……ん??
『ねえ聞いているの? ねえってば!』
「……」
「……どしたのアイリスたん。そんなにわたしのことを見つめて。……そのうれしいんだけど、なんていうか、この場には日葵ちゃんもいるからそのー……恥ずかしいっていうか……」
……は?
いや何を言っているんだこいつ……。『思念』が届いていない? そんなはずは……。それか気づいていないふりでもしているのか……?
私は再び『読心魔法』を発動する。
――あ、あんなに熱い視線を送っちゃって……!? ど、どど、どうしよう……。アイリスたんってわたしのことが好きなのかな……。
「……」
……もしかしてだがこいつ。この露草という少女、自分の持つ魔力に気づいていないのか……?
この前は窮地に陥っていたから無意識に『思念』を飛ばしていた、とか……?
いやそんなことありえるのか。だってあの魔力量だぞ……? あれは下手したら魔王と戦う前の私に匹敵しうる魔力量だった。それに気づかない奴なんて存在するわけがない。
もしそんなのが本当に存在したならば、そいつは相当に頭がイカれていて――
……いや、気づいていないのかもしれない。
なにせ露草はまさに相当に頭がイカれているからだ。シュールストレミングだって食べるし。ほかの可能性がないわけではない。例えば、常時発動している『索敵魔法』をかいくぐり、私に気づかれずに『思念』を妨害したなにものかがいる、とか。だがそんなものもっとあり得ない。露草が自身の魔力に気づいていないだけだという方が大いに納得がいく。だって露草だし。
そう私が一人納得していた時だった。
「……? どうしたの日葵ちゃん」
「……いえ、なんでもないです」
「そう……?」
気のせいだろうか。
日葵ちゃんが、意味ありげにこちらに視線を向けていたのは。
後日、私は露草になぜあの日あんな山の頂上に幼女と一緒にいたのかと訊いたところ、彼女は趣味だと答えた。事件のにおいがした。
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