何者でもない僕

@nanimono_boku

第1話

何者でもない僕。

SNSで新しくアカウントをつくろう、というときにつけた名前だ。


インターネット上で生きるからには、匿名性が欲しかった。

というわりには、「僕」などとつけて個を主張したいのではないのか、と思わないでもない。

何にせよ、現実から離れたいという欲が強かったのは確かだ。


何者でもない。

何もないところから、僕を構築したい。

新しく生まれ変わりたい。

よく前世や来世などと言うけれど、きっと僕は自分の手で新しい世界を見たかったのだと思う。

誰かの欲の下、勝手に産み落とされて、そして勝手に生きろと言われる。

そんな世の中から飛び出して、自分の手で生まれて、死にたいときに死ぬ。

そういうことがしたかったのだ。

だから僕は生まれた。


さて、生まれてから初めに何をしようか。

まずは産声をあげるか。泣き叫ぶか。

他人が被り得る迷惑の度合いなど、微塵も気にすることなく、大きな声をあげてやる。ただひとつの理由もなく。

大人だってそうしていいのだと思う。どうして口にチャックをして、涙を一滴も溢すまいと、必死に耐えねばならないのか。

誰だって赤ん坊になりたいもの。

まずは産声をあげてみよう。

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