第27話裏切り


憂鬱だ。


「シャトレーゼ様、日本には予定通りの日時には到着できるそうです」


「そうですか。分かりました」



わたくしは護衛のエリカの報告を聞きながら窓の外を見る。窓の外の景色は一面が雲で覆われており何も見えない。だが、ふっと光輝く鳥が見えたような気がした。



「今、鳥が…」



見えた気がするのだけど、と言おうとしてやめる。飛行機の速度に対して鳥が見えるわけがない。あの出来事で精神的に疲れているんだと思った。



「シャトレーゼ様どうかなさいましたか?」

「…なんでもないわ」

エリカはそれ以上わたくしに話しかけることはなかった。




わたくしは鳥が嫌いだ。



わたくしと違って空を、大空を自由に飛び回る鳥は嫌いだ。



わたくしと同じく屋敷という檻に閉じ込められた、従順な鳥はもっと嫌いだ。





わたくしはエリカが言う通り予定通り日本に到着した。



「シャトレーゼ様ここからは車に乗りホテルに行きます。ここからホテルまで1時間かかります」

「…。」



わたくしは何も言わない。日本に来たことも、日本の偉い人に会うこともホテルの場所さえわたくしには決定権はないのだから。



ホテルに着いたならエリカが今後の予定を確認していく。



「明日には一度、こちらの国の象徴と言われる天皇とそのご家族との謁見があります。午後からは内閣総理大臣、外務大臣など政治を日本の政治を中心的に行っている方々に会ってもらいます。」



「分かりました」

「18日から24日は今回、日本各地のスタンピードが起こった場所に行ってもらいます」



ハードなスケジュールだと思う。休めるのは今日の一日だけそれ以降は毎日のように忙しい。日本に来たら、一度立ち寄ってみたかった場所があるのにこれではいけないと思いながらわたくしはベッドで休む。




≪13時57分≫

「ようこそ、シャトレーゼ殿下」



そう言って、この国の首相はわたくしに握手を求めてくる。その様子を日本の記者や自国のテレビ局がカメラに収めようとするので、わたくしも自国と日本が友好関係であるというのを示すために日本の首脳と握手をしようと行動に移すが…



【憎い】

と後ろからはっきりと聞こえた。


わたくしはその声にとてもなじみ深い声だったため無意識に後ろを振り返る。



すると小さい黒い宝石を私の近くの地面に叩きつけているエリカの姿があった。黒い宝石はパリンっという音共にその場の空間を歪ませたのである。



わたくしをその黒い歪みに吸い込まれる直前、他の護衛に押さえつけられているエリカがわたくしを今まで見たことないくらい憎悪を宿す瞳でわたくしを写していたのを見た。





「うっ。ここは?」

そう思い、わたくしは辺りを見渡す。わたくしは石の通路の地べたに無造作にわたくしが置かれていることに非現実的観を感じる。



わたくしは、だんだんと意識がはっきりしてきて先ほど起きたことを思い出す。


「そうでした…。わたくし、エリカに裏切られたのでしたね」



わたくしが命を狙われることはめずらしくない。公爵家の令嬢で王族の血を引くわたくしは王位継承権はぎりぎり一桁台に入る。


わたくしを邪魔に思った兄妹か、いとこが暗殺者を送り込んでくることもある。



わたくしは一度生死をさまよったことがある。公爵家の晩餐会で毒を盛られて吐血し、一週間ほど高熱を出した。



そのときの犯人はお皿を運んだ召使いだとされているが裏には誰かいたと思う。


じゃなければ、毒をもった召使いが捕まって2日後に心臓麻痺で急死するわけない。これでは、まるでトカゲのしっぽ切りではないか。



「グオォォー」

「ワオーン」


「ひっ」


獣の気配と鳴き声が通路に響き渡り、わたくしは思わず、悲鳴を上げる。



だが、この現実味がない場所とおそろしい生物がいるところには心当たりがある。4年前に出現し、国をめちゃくちゃにした存在。


「…ダンジョン」


____________________


【せーいかいです~】


金髪縦ロールの髪が長い少女がダンジョンと呼ばれる場所で震えながらいる姿がテレビに映し出される。



「なんだよこれ…」


俺は先ほどまで、バラエティー番組を見ていたはずなのに急にテレビがじわれを起こし、首脳と殿下と呼ばれた少女が握手しようとする瞬間がいきなりテレビに流れてきた。



他のチャンネルに切り替えても同じで俺が困惑していると、少女の真後ろに控えていた護衛役の黒服の女が急に何かを地面に叩きつける狂行に出たのだ。



そしたら黒いゆがみが少女を吸い込み少女はその場から消え、テレビの視点も変わる。少女が10分くらい石の通路の地べたに横に倒れている図がテレビで10分間放送され、ネットの掲示板では騒ぎが広がった。



ネットの掲示板で分かることは、他国でもこの放送が流れていることだ。これは、偽動画なのか?本当なのか政府に問い合わせをする人が続出している中、ピエロのペイントをしたちりじりの赤い髪の男がテレビに映し出せれ、言葉を発する。



【ようこそ、テレビを見ている方々。私はフロルサーカス団の団長のナタルと申します】


そう言って男は頭を下げる。



「こいつが…」

今、大々的にニュースでも取り上げられている犯罪組織。



【本日は皆様方に面白いショーをお見せします。それは、祖国に捨てられた哀れな少女がダンジョンで殺される様です】


男は笑顔を顔に張り付けたまま説明する。



【王位継承権第9位リリーナ・シャトレーゼ殿下は日本という国で亡くなることで、日本は殿下の祖国に責任問題を問われます。そう、このショーは殿下の愛する祖国が考えたショーなのです! 】



男は何がおもしろいのかけらけらと笑いつづけていたが急に笑い声を上げるのを止める。



【おや?殿下がモンスターに見つかりましたね】


男がそう言うとテレビの視点が変わり、少女がミノタウロスに追われるシーンが出される。


テレビは映す。少女が逃げている途中で足を絡ませて倒れこみミノタウロスの戦斧が振り上げられる瞬間を…。

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