第12話装備


「アイリちゃん~本当に、本当にいぢゃうの~」

泣いて俺にしがみついてくるのは未来ねぇだ。



スタンビード二週間前になって、全国の6箇所一斉スタンビードのおそれがあると、ハンター協会から発表された。



そして一週間前になって、その地域にいる戦闘系ハンターには何か特別な理由がない限り、スタンピード防衛に強制参加が義務付けられた。



「未来…」


兄も、俺に何か言おうとしているけど未来ねぇが大声を出してわがままを言っているので呆れて何も言えてなかった。



俺は未来ねぇを落ちつかせるために言葉を発する。

「俺は強いから死なない」



そう、嘘をつく。前世で不意打ちで死んでるのに何言ってるんだと思われるがスタンビードごときで負ける気がしないのも事実だ。



「アイリちゃん慢心はよくないと思います」

未来ねぇは真顔になって、説教を俺にした。





ー30分後ー

「分かりましたか?」



「分かりました」

俺はげっそりしながら頷いとく。



「未来、説教もいいけどアイリに何か渡すものがあったんじゃないか?」


「あっそうだった」

そう言って未来ねぇは黒いスーツ入れみたいものを取り出す。



「陽翔は一旦、私が呼ぶまで外出て」

「分かった」と、言って兄は素直に部屋から出ていく。



「じゃじゃん!アイリちゃんの戦闘服がこちらになります」



そう言って、黒いスーツ入れみたいな中から出てきたのは、上が青とエメラルドのグラデーションで草模様が入っていて、下と帯が黒い袴だった。



いや、これは完全におしゃれではないか?



「じゃあ、着替えようかっ」

未来ねぇは俺の疑問を吹き飛ばすように袴を着させていった。



「キャー。やっぱりアイリちゃん似合う。モデルさんみたい」



そう言われるとなんだか恥ずかしくなり、顔に鬼の仮面を付けて顔を隠してしまう。



「鬼の仮面とも似合うわ。あっ。最後にこれも上に羽織って」



そう言ってストールのような薄い素材でできた黒い外套の羽織るものを渡される。



軽いな風に吹き飛ばさそうだと思いながら着る。



「この袴、カシシルキーって言って火に強い通気性ばっちりな素材で燃えにくいし、軽いんだよ。そんで、このストールみたいな羽織はなんと、スキルが付いてます」



!?スキル付きのアイテムを作れるのは熟練した職人しか無理なはずなのに…プレイヤーになって少ししか経っていない未来ねぇが付けられるなんて、才能を感じられる。



「そんなに驚かないで、たまたま付けられたものだしスキル効果も弱だもん」

そうなんだ。思いながら聞く。

「ちなみになんのスキル?」



「隠密(弱)かな。地味だよね。スキル効果(弱)だし、注目されてない限り気配を薄くしたり、止まっている間だけ見えなくなるなんて効果もうす…」



俺は未来ねぇに抱き着く。初めて俺から抱きつかれて、未来ねぇは困惑したように顔を赤くする。



「ふぇ~。アイリちゃん急にどうしたの?」

「未来ねぇ!この羽織、気に入った大切にするから」


俺が笑顔で仮面を外しながら笑顔で言うと、未来ねぇは急に鼻血を出して倒れこむ。



「未来ねぇ!?急にどうした!」

「な、なんでもない。破壊力がありすぎて」

「兄、急いで呼んでくるから待ってて」


そう言って、俺は兄を呼ぶ。兄は未来ねぇが鼻血を出した理由を聞いて呆れかえっていた。



未来ねぇは数分後、落ち着きを取り戻し鼻血もちゃんと止まったようだ。



「アイリ、俺からもプレゼントがある」

そう言って、渡してきたのは刃が緑の風属性が付いた小刀だった。



「遅めの誕生日プレゼントだ。本当は刀を作りたかったが俺の腕じゃ、まだまだ師匠が作った刀より出来が悪いから、せめて、メインの武器が壊れて使えなくなったらサブとして使ってくれ」


「ありがとう」



最近、兄がアイテム作りの師匠に通い詰めていたのはこれのためかと思いながら受け取る。



「じゃあ、そろそろ行く」

「爺やに挨拶してないだろう。爺やに挨拶してからいけ」



それも、そうだなと思い、家の中にいる筈の爺さんを探す。感知で探すと、仏壇がある部屋に爺さんがいることが分かったのでそちらに向かう。




「爺さんいる?」



そう言い俺は襖を開ける。仏壇には俺の父と母、弟の写真があり線香もあげられていた。


爺さんは俺に背を向け、仏壇前で手を合わせていたが俺が話しかけるとそれをやめ、振り替わる。


「誰じゃ。お主」

そう言って警戒体勢に入ろうとしていたので、俺は認識阻害の鬼の仮面を外す。

「なんじゃ、アイリか。また面妖な格好をしておるな」



鬼の仮面は一度正体が露見すれば効果も薄れるため、もう一度鬼の仮面をつけなおしたとしても、俺だとバレる。



「行く前に挨拶しようと思って」

「ふん。どうせ、陽翔あたりに言われて来たんじゃろう」

なぜ分かる?そう思いながら座布団に座る。



「覚えておるか。あの災害からあと3日で4年になる。」

「覚えているよ」


あの忌まわしい出来事、何もできずに家族を失う虚無感。


「今回のスタンピードは災害の日に示し合わせたように全国でスタンピードが起きる」

「そうだね」

「いつもより気を付けて行くんじゃぞ」

「分かった」



俺は仏壇の部屋から出る。俺はあまり、家族が死んだという事実を直視したくないがためにあの部屋には立ち寄らないが、逆に爺さんは俺がダンジョンに行く際などによくいることが多い。



たまたま、ダンジョンに行く前に忘れ物をして、その部屋に通りかかったことがあるから知っている。


俺がダンジョンで怪我しないように見守ってほしいとか言っていたけど、俺は死者にそんな頼みをしても、無駄なことを知っている。

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