第6話『年姬』 (としひめ)

その日、年月天は小さな機に向かって腳を組んで座り、アルバムを見ていた。


アルバムの中には多くの寫真があり、一人の女性が赤ん坊を抱いている姿が寫っていた。


その女性こそが年月天の母親であり、幼い年月天はうっかりと尋ねた。


「自分が生まれたことを覚えている?」


睦月は笑って答えなかったが、頭の中でゆっくりと思い出し始めた。


年月天が生まれた時の様子は、今でも彼に深い印象を與えている。


年月天が生まれた直後、家中はまるで大きな変化に見舞われたかのようだった。


家族や父、母、さらに使用人たちはささやき合っていた。


歴代の年家の「年姫」は女性だったのに、なぜこの世代では男性となったのか、これは不吉な前兆だと伝説には言われている。

一般の人々にとって男の子を生むことは特に問題ではないかもしれないが、年家にとっては絶対に許されなかった。


それは歴代の年家の守護者である「年姫」が、この國全體や時代全體の平和と繁栄を守っている存在だからだ。


通常、彼女たちは「年」家の子孫であり、十二月天の守護精霊とコミュニケーションを取る能力を持つ者が引き継ぐことができる。


ただし、年家に生まれた女性は必ずしもその能力を持つわけではない。しかし、その能力を持つ女性は「年姫」として引き継ぐことができる。


その女性の左手の名前なき指の裡には、鮮紅色で明確な守護神の印があり、彼らは十二月天の守護精霊とコミュニケーションを取ることができる。


この鮮紅色の印は不思議なもので、次の世代の「年姫」に自然に引き継がれる。


まるで自らの主人を選ぶかのように。


しかし、この世代ではこの守護神の印が年月天に移された。この鮮紅色の痣の名は「十二月天」と呼ばれる。


家族によって未知とされた年月天は、幼少期から本家の外にある一軒の屋敷に追いやられた。


この家は本家ほど豪華ではないが、年家の子孫としては比較的上品な居住地域にあった。


年月天は母親と一緒に住んでいたが、6歳の時に事件が起こり、彼は一人暮らしをすることになった。


食事は本家の使用人や執事、女中が準備してくれた。


睦月はここまで思い出しながら、年月天の頭を軽く撫でながら、愛情と気遣いに満ちた目で彼を見つめた。


彼はこの年齢で失ったすべての愛情をしっかりと與えたいと思った。


睦月は無口であるものの、行動はすべてを表していた。


そして、年月天もそれを感じ取ったようで、睦月の動きの隠れた意味を安心して受け入れ、彼の腕の中で眠りに落ちていった。

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