第48話 大決戦&大乱戦!!

 俺の前に現れた『災悪』の破壊王。

 術中にはまり、絶体絶命のピンチだと思われたが……


「はい、そこまで」


 屋上の出入り口から、場違いなほど綺麗な声が聞こえてきた。

 破壊王が振り向く。


 そこにいたのは鋭い眼光を放っている『主役』のアリスだった。


 まるで絶望を塗りつぶすような毅然とした姿。

 暗雲の中で輝く一筋の光がそこにはあった。


「…………何者だ?」


 問いかけられた質問に答えず、破壊王の隣を素通りして、アリスは俺の前に立った。


「君さ。さっき私を突き飛ばしたよね。まったく……私は主役なんだよ? あんな扱いされたのは初めてだよ」


 腰に手を当てて、屈んだアリスは拗ねるような声である。

 破壊王の方は完全に無視だ。

 そして、俺は……


「ああ、悪かったよ。でも、助かったぜ。今回も『合図』に気付いてくれたな」


「そうだね、いつものやつだよね」


 俺が破壊王に最初に撃った銃弾。今回もアリスへの『合図』だった。

 最も頭に残りやすい『弾数』を最初から込めている。

 もちろん、音もそれ用に改造していた。


「まあ、目の前のまぬけは演技による『時間稼ぎ』とは気づかなかったみたいで、助かったけどな」


「な、なんだと」


 破壊王がとてつもない形相を俺に向けてきた。

 おお、怖い。


「いやあ。茶番に付き合ってくれてありがとうな、破壊王ちゃん。いきなり破壊に来られたら危なかったわ」


 破壊王から『心の破壊』なんて単語が出た時は、本当に『チャンス』と思った。

 そんなものに拘って演技も見抜けなかったとは、いくら王とはいえ、まだまだ子供だったわけだ。


 とはいえ、やられ役が惨めに泣き喚いていれば、本気だと思うのが当然だわな。

 『やられ役は弱くて無様』。だが、この固定概念こそが最も『フェイク』としての利用価値があったのだ。

 それは大きな油断にもつながった。


 おまけに破壊王と俺は初対面だ。俺を知っている奴なら、俺の違和感に気付けたのかもしれないが、破壊王は俺の性格なんてよく知らない。

 だからこそ、奴は簡単に騙された。


 全てを知る王の特性は『やられ役』は知っていても、『俺』の特製までは知らなかったという事だ。


「この、クズめ!!!」


「悪いな、やられ役ってのは、悪あがきが得意技なクズなんだよ」


 ありとあらゆる状況を逆手にとって、どこまでも悪知恵を働かせる。

 王だかなんだか知らないが、が関係ない。結末は俺が決める。

 俺は神から設定されたクズのやられ役だ。

 だから、そんな常識は知らないのだ。


「ふふ、かーくん。計算通りだね!」

 

「サチ。付き合ってくれて、サンキューな。完璧だったよ。でも、よく俺の演技が分かったな」


「うん、私はかーくんの事なら何でも分かるんだよ。演技ならお任せです。えっへん」


 さすが自称腹黒ちゃんである。


「本当に、君たちは面白いね。さて…………それじゃあ、後は任せてもらおうかな」


 クスリと笑ったアリスが、俺たちを庇うように前に出た。


「わ、私も助けてくれるの?」


「当り前だよ。危ないから、私の後ろに下がってね」


「アリス様……ステキ!」


 生徒会長は完全に目がハートマークになっていた。新たなファン誕生の瞬間であった。 


「っていうか、お姉ちゃんは誰だよ? 守るってボクが誰だか分かって言っているの?」


「そもそも、君こそ誰だよ。……でも、子供の姿をしていても分かる。君は『悪』だな?」


 破壊王を見たアリスが珍しく警戒した様子となった。

 直感で危ない奴だと分かるようだ。


「アリス。気を付けろ。こいつがあの破壊王だ」


「なるほど、この子が噂の……どうやら主役の私にしか倒せない相手みたいだね」


「っ! そっか。お姉ちゃんが主役! まずはお姉ちゃんから破壊した方がよさそうだ」


 主役の名前を聞いて、破壊王も金色の目を細める。

 お互いに警戒すべき相手らしい。


「いでよ! 我がしもべたち」


 破壊王が手を上げた瞬間、床から大量の人影が出現した。

 顔は雑兵に似ていたが、その目に生気は無い。どうやら人間でも無いようだ。


「これも『王』の力だよ。強くは無いけど、手下を召喚できるんだ。オプションってやつだね」


「なるほど。ちょっと厄介かもね」


 アリスの敵ではないだろうが、問題なのはその数だ。三十人近くいる。

 いくらアリスでも物量で押されると厳しいのかもしれない。


「でも、ごめんね。こっちも一人じゃないんだ」


 アリスが後ろを見ると、入り口からEクラスの面々が躍り出た。


 ドSの紫苑にドMのミミ。そして解説者とコミュ障ちゃん。

 ボマーちゃんにひねくれ女子。

 更には優斗とヒロイン達まで混ざっていた。


「鎌瀬君。みんなが君を助ける為に、ここまで来てくれたんだよ」


「……マジか」


 なんとう感動的な場面だ! 皆がやられ役の俺なんかの為に集まってくれていたというのか!?


「せんぱーい。私も来ましたよ~」


「あなたは私が支配しているのだから、勝手に死なせないわよ」


 よく見ると、Aクラスの『小悪魔』と『支配者』まで参入している。

 おいおい、お前らもいんのか!?


「うっす。ついでに参加させてもらいます」

「情熱のないクズどもが。燃やし尽くしてやる!」


 なぜか雑兵に炎使いまでいる。

 って、ちょっと待てぇぇぇぇ! お前らは流石におかしいだろ!?!?


「もしかして、アリスの能力か」


 恐らく主役の力だろう。

 今まで戦った敵が味方として最後に駆け付けてくれる。そういった補正がかかるのだ。

 じゃあ俺、全然関係ねーじゃん。一瞬、俺の人徳とでも思っちまったぜ。

 まあ、やられ役にそんな人徳はありません。


「さて、どうでしょう。少なくとも私は、かーくんのためにここにいるよ」


「そ、そうか」


 俺だけのためにいてくれる変わり者も、ここに一人いるようだ。


 しかし、とんでもない絵図だな。今まで出会ったヤバい属性の人たちが大集合だ。

 完全に大乱戦の予感である。 


「さて、それじゃ、私の可愛い犬を増やしましょうか!」


 次々に新たなペットを増やしている紫苑。

 その隣では、優斗やヒロイン達が次々と敵を撃破していた。


「インフィニティフォースブリザード! お前は死ぬ!」


「優斗かっこいい! 私たちも負けてられないね!」


 しかもこいつら、なんかよく分からん必殺技を放っていやがる!?


「ふう。ハーレム主人公のはずが、いつの間にか必殺技を会得して、無双してしまっている僕がいた。またやっちゃいました? 僕って本当に不幸だな。やれやれだぜ」


 いや、意味分かんねーよ。どこに不幸要素があるんだよ。

 相変わらず常識の通じない奴らである。

 ハーレム主人公は、戦えないんじゃなかったのか?


「く、来ないでよ」


 生徒会長が敵に追い詰められて、俺たちの近くまで逃げてきた。

 それを追って俺たちの周りに群がる破壊王の手下たち。

 完全に囲まれている状態だ。これは何気にピンチだぞ。


「生徒会長。お前は戦えないのか?」


「無理よ。私はただの生徒会長よ。あんな変な力は使えないわ」


「なるほど。あんたはチーターじゃないって訳か。よし、許す」


「許すって何が!?」


「むむ、なんか二人、ちょっと似た者同士で仲良しだよね。これは意外なライバルが現られちゃったか?」


 サチはなぜか嫉妬に満ちた表情で生徒会長を睨んでいた。こいつも案外マイペースである。


 敵に囲まれた俺たちは大ピンチのはずだったが……


「小悪魔ちゃん、本気出しちゃいま~す♪」


 小悪魔は大鎌を出現させて薙ぎ払いつつ、大量のドクロレーザーを放って手下を壊滅させている。


「ふふふ、どんどん支配してあげるわ」


 支配者に睨まれた相手は次々と操られて味方になっていく。

 さすがはAクラス。いろいろと規格外である。

 

「さあ、敵の皆様。このミミを狙ってくださいませ」


 ほとんどの敵はミミの元へ集まっていた。彼女がドMフェロモンで集めたらしい。

 なぜかミミは半裸なのだが、そこは突っ込むまい。


「でかしたぞ、ミミ君。そうやって敵を一か所に集めたら一掃するのも容易かろう」


「どいつもこいつも暑苦しいわね。はあ、帰りたい」


 ちなみに解説者さんはひたすら解説しているだけで、ひねくれ女子さんは文句を言っているだけだ。全く戦力になっていない。

 コミュ障ちゃんもオロオロしているだけだ。


 ま、俺も似たようなもんだ。そんな状態でも来てくれたことに感謝するべきだろう。

 

「無能同士、仲良くしようぜ」


「誰が無能よ。あんたと一緒にしないで」


 ひねくれ女子に睨まれてしまった。


「まあまあ、一緒に見学しましょうっす。あ、これ。この前のお礼っす」


「お、気が利くね。一緒に見ようぜ」


 俺と雑兵はジュースを飲みながら見学モードに入った。

 俺たちの友情は最強だな、うん。


「ああ、こんなにも『燃料』がたくさん……最高!!!」


 ミミの集めた敵はまとめてボマーちゃんがぶっ飛ばしていた。

 何気に撃破スコアは最もボマーちゃんが高い。こういう時は頼りになるものだ。


「いい爆発だぜ」


 さらにその爆発に炎使いの火炎が混ざって、さらに範囲が拡大する。


「ふ、ボマーちゃんか。気に入ったぜ」


「ふふふ。私もよ」


 炎使いとボマーちゃんは意気投合していた。

 お前ら、お似合いだよ。

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