対決、Aクラス!
第36話 まともな戦いなら最強なんですけどね
「せんぱーい♪……って、あれ?」
午前の授業が終わって、今から昼休みが始まろうとしている時、いきなり小悪魔が俺に抱き着こうとしてきた。
だが、俺はその奇襲を華麗に回避する。
そろそろ気配で分かるようになってきた。
我が反射神経を舐めるなよ?
「何で避けるんですか?」
「普通、避けるだろ」
「避けられてしまったら、体で落とす作戦ができないじゃないですか。あ、でも避けるって事は、先輩は落ちることを恐れている。この作戦は効果があるって事ですね。よし」
「恐ろしい小悪魔だな!」
何が何でも俺を落としたいらしい。
「ま、今回は先輩に情報を持ってきたんですよ」
「情報?」
「そうです。実はAクラスの生徒が、Eクラスに何か仕掛けようとしているみたいですよ」
「え? そうなのか。物好きな奴もいるもんだな」
もっとも優秀とされているAクラスの連中は、俺たちEクラスからは敵視されている。
Aクラスというだけで何かと優遇されていることが多いからだ。
逆にEクラスはその分不遇とされている場合が多い。Aクラスを良く思っていない奴が多いのは当然だろう。
実は小悪魔も結構煙たがられている。
逆に言うと、AクラスもEクラスを嫌っている可能性が高い。
ま、俺はAクラスの生徒とかどうでもいいんだけどね。強いて言うなら関わりたくない。
「じゃ、生徒会長に呼ばれているので失礼します。頑張って刺客を撃退してくださいね~」
そのまま楽しそうに教室を出て行く小悪魔。
こいつは一体何をしに来たんだ。
「ここがEクラスね」
そんな時、普段は聞かないような高飛車な声が耳に入ってきた。
目を向けてみると、一人の女子がEクラスの教室を見つめている。
誰だ? こんな変人ばかりがいるクラスに用でもあるのか?
腰まである長い金髪。イアリングを始め、派手なアクセサリーを見ると、一目で彼女が金持ちだと分かる。
「汚い所ね」
しかし、その目は明らかに俺たちを馬鹿にしていた。
そしてその制服は俺たちとは違う高級感に溢れる制服。ついさっきまで見ていたものだ。
「おい、あれはAクラスの生徒じゃないか」
クラスの一人が声を上げると全員が彼女に注目する。
この女が小悪魔の言っていたEクラスに何かしかけようとしている奴なのか。
「ふふ、本当に低レベルな人間ばかりね。見ただけで分かるわ」
完全に見下している声。間違いないようだ。
「なんだと! 出ていけ! 偉そうなAクラスの生徒め!」
一人の生徒が怒りの声を上げる。Aクラスの存在そのものが許せないのに、ここまで挑発されては黙っていられないだろう。
「そういうわけにはいかないわね。あなた達Eクラスは私に『支配』されるのだから」
「……はあ?」
突然の支配宣言。
いきなり何言ってんだ、この女。
それを見た解説者が声を上げた。
「む、あいつは知っているぞ!」
「解説者か。ちょうどいい。説明してくれ」
「うむ。彼女は『支配者』の属性を持っている女だ。所属はAクラス。その能力はその名の通り、相手を支配してしまうという能力だ」
「支配だって? 具体的にはどうなるんだよ」
「そのままの意味だ。彼女が力を使った時、その命令には誰も逆らえない。どんな命令でも、言う事を聞くしかないのだ」
「……冗談だろ」
チートってレベルじゃねーぞ。さすがはAクラスってところか。
「ふーん」
アリスも興味津々に解説者の説明を聞いている。
「私の能力と似ているかもね」
アリスも全力を出せば、敵を意のままに操る力を持っている。
逆に言うなら、支配者は主役級の強さを持っているという事だ。
「あなた達Eクラスは学校から不必要と言われているのよ。存在するだけで、私たちの格を落とすの。生徒会長からは、Eクラスを潰した方がいいとの声もよく聞くわ。でもそれは流石にかわいそうだから、私が支配してあげようって事。光栄でしょ?」
「ふざけるな!」
先ほど怒っていた生徒が女に詰め寄る。堪忍袋の緒が切れたようだ。
「ふふ、なに? 私とやる気?」
「……ぐ」
射殺すような目を向けられて男子は完全に威圧されていた。
まともに戦っても負けるのは明白だろう。
「いいわよ。それなら勝負しましょうか? 私が負けたら、このクラスの支配は諦めてあげるわ。その代わり、負けた人は私の支配下に入ること。いいわね?」
とんでもないことになった。
負けてしまったら、この女に一生支配されてしまう。
「どうしたの? かかってこないの? 何人で来てもいいわよ」
その言葉を聞いても、誰一人戦いに挑もうとはしない。
そもそも格上のAクラスの生徒に俺たちEクラスが束になって挑んでも勝つのは無理だ。
「ち、めんどくさい奴だな。分かったよ。まずは俺が相手になろう」
都合よく『敵』がわざわざ『勝負』を挑んできてくれたのだ。
『勝利』という課題の達成にはちょうどいい。
負けてもやられ役ポイントが貰えるしな。
「か、かーくん。危ないよ」
「何だったら、私がやってあげてもいいけど……」
サチとアリスが心配している。
確かに俺は絶対勝てないやられ役な上、相手は最上級のAクラスだ。
不安になるのは当然だろう。
「まあ、まずは俺にやらせてくれ。主役は最後に出て来るもんだろ?」
「それは……そうだね。分かったよ。君が勝てるように応援してあげるよ」
「かーくん、頑張って!」
二人の期待を背負い、改めて支配者と向き合う。
切り込み隊長こそがやられ役の役割。
せいぜい期待に応えてやろう。
「ふっ。女ごときに、この俺が負けるはずはない」
「うわっ! かーくんがすごくやられ役っぽい!」
「いや、君。いつも私に負けてるよね!?」
アリス様から鋭いツッコミを受けたが無視する。
そして俺は支配者に向かって三本の指を立てた。
「30秒だ」
「は?」
「30秒で、お前は負ける。俺の計算は、完璧だ!」
いきなりの勝利宣言に周りが騒めく。
言っておくが、これはハッタリではない。
俺はきちんと計算して数値を叩き出したのだ。
まともに戦ったなら、俺は本当に30秒で勝てる。
「ふん。まあ、いいわ。かかって来なさい」
「じゃあ、遠慮なく……」
俺は懐から二丁の改造エアガンと取り出した。
「ちょっ!? なにそれ! 武器を使うつもり!?」
「ふっ。女に対してこの卑怯な戦い方。さすがやられ役のクズだな」
解説者の言葉にクラス全員が俺に冷たい目を向ける。
「知るか。勝つためには手段なんて、選んでられねえよ」
俺の言葉にさらにクラス全員が軽蔑の目となる。
「ふふ。その通りね。なら、こっちもそうさせてもらうわ」
エアガンを向けられても恐れを見せていない支配者がニヤリと笑う。
こいつ、このエアガンが怖くないのか?
「命令する! 『動くな』!」
「っ!?」
支配者が声を発した瞬間、俺の体が動かなくなった。
「『敗北を認めろ』!」
「分かりました。俺の負けです」
「はやっ!?」
いきなりの俺の敗北宣言にクラス全員が同時に声を上げる。何人かはずっこけていた。
30秒どころか、3秒で負けてしまいました。
当然ながら、やられ役はまともな戦いなど出来ないのです。
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