第6話 つまり負けヒロインが結ばれたらいいのです
まあ、せっかくサチと同盟を組んだし、異世界転生は諦めてやるか。
サチにも申し訳ないし。
「で、どうするんだ? 生き残る方法はあるんだろ? だからお前はこの話をした」
「なんだ、きちんと分かっていたのですね。いいでしょう。あなたが助かる唯一の方法、それは『因果を歪める』事です!」
「因果を歪める? どういうことだ?」
「私に因果を変える力はありません。ですが軽く『操作』することは出来ます。だから因果を歪めてもらえたら、それを操作してあなたが死なない因果へ変更することが可能なのです」
「さっぱり分からん。つまり、俺は何をすればいいんだ?」
「方法ですが、『普通ならあり得ない事』を起こしてください。そうすれば、因果が歪みます」
普通ならあり得ない事。それを起こす事で、因果が歪んで俺は助かるらしい。
「まだ抽象的だな。もうちょっと具体的に教えてくれよ。例とか無いのか?」
「例えですか? 分かりやすいのは『あなたが勝つ』とかですね。あなたは『負ける』という因果の持ち主なので、あなたが勝利するという現象を起こせば、因果は歪みます」
「ちょっと待て。俺はやられ役だぞ。絶対に勝てない運命の俺が、どうやって勝つんだよ?」
「それは…………なんとか頑張るんです! 根性とかで!」
「根性で何とかなるかっつーの!」
一年以内に一度でもいいから『勝利』する。これだけ聞くと、普通の人なら簡単だと思うだろう。
だが、俺は『やられ役』だ。絶対に負ける『運命』である。
だから、『勝つ』というのは実質的には不可能だ。
「他には、やられ役ポイントを百万くらい稼げば、因果が歪むかもしれません」
「……そいつも難しいな」
主役であるアリスに負けてもポイントはたった100だ。
毎日負けても一年でポイントは十万にも満たない。圧倒的に時間が足りない。
「ええい! 諦めるんじゃありません! あなたは特別に選ばれたのですよ!」
「はあ? 俺が、選ばれた?」
「はい。神ノ町の裏ルール、本来は人間に死の未来を教えてはいけないのです。あなたは特別です」
「なんで、人間に死の未来を教えたらダメなんだ?」
「人によっては自暴自棄になる方がいるからです。死の未来を知れば、諦めてやりたい放題する人もいます。どうせ死ぬのだからと、好きな女の子を無理やり襲う輩なんかも出ます」
なるほど。因果を歪めるなんて条件は難易度が高すぎる。
諦める奴も続出するはずだ。
そうなると、中には自棄になって、とんでもないことする人間が出てくる可能性も高い。
「もう一度言いますが、あなただけが特別です。未来を教えてもいい許可が下りたのです」
「ど、どうして俺なんだ? 俺はただのやられ役だぞ」
ありがたい話だが、正直腑に落ちない。俺みたいな奴は死んでも誰も困らんだろ。
「考えても見てください。あなたはやられ役です。例えばあなたが自暴自棄になって、好きな女の子を無理やり襲っても、『勝てない』のです。未来を知って悪用しようとしても、確実に『負ける』。そう、あなたは絶対に悪い事ができない人間なのです!」
「…………なるほど」
俺がやられ役だからこそ自棄になったり、悪だくみをしたところでどうせ負ける。
つまり、確実に失敗するという事だ。俺はある意味、害の無い人間なのだ。
だからこそ、俺にだけ死の未来を知る許可が出たというわけか。
「あなたが誰にも勝てないクソ雑魚で、毒にも薬にもならない無価値で、生きている意味も分からない無能人間だからこそ、選ばれたのです!」
「やかましいわ!」
嘘がつけないからって言いたい放題言うんじゃない! この毒舌天使!
ただまあ、チャンスではあるのは間違いない。死神のちょっとした気まぐれだ。
せっかくなので存分に利用させてもらおうじゃないか。地獄に落ちるのもごめんだし。
「確か『普通ならあり得ない事』を起こせばいいんだな」
「はい。今のところ、『やられ役のあなたが勝つ』というのが有力ですかね」
いや、方法はもう一つある。俺はすでに対策を思いついていた。
「例えば『負けヒロインの恋を成功させる』ってのはどうだ? これもあり得ない事だから、因果は大きく歪むはずだ」
「ほう! それも一つの考え方です。負けヒロインは『失恋する』という因果なので、『恋を成功させる』ことができれば、因果は歪むでしょう」
思った通り、この方法でも因果は歪む。よし、色々と見えてきたぞ。
「そうか。あなたは最近になって同盟を組んだ。それをうまく活用するつもりなのですね!」
「そういう事だ。よく知っているじゃないか」
そう、やられ役の俺が勝つってのは難しい。
でも、サチの恋を成功させるって条件なら、何とかなる可能性もある。方法は何も一つだけとは限らないのだ。
要するに先日に組んだ同名の目標を達成すればいいってわけだ。やる事は簡単じゃないか。
やられ役の俺が勝つ。そして負けヒロインであるサチの恋を成功させる。同盟の目標はまさに今回のミッションにはピッタリだった。
俺はどんな手を使っても勝たなければならなくなった。もしくは、なんとしてでもサチの恋を応援して、あいつの恋を成就させなければならない。
「あとは『ポイントを百万稼ぐ』か。まあ、これはやっているうちに溜まっていくか」
こっちは逆で『負ける』ことでポイントが貯まる。失敗したら、それがポイントになるのだ。
要は『たくさん挑戦する』。これが最も効率的な戦略となる。
勝てたらそれで俺の命は助かるし、負け続ければ大量のポイントが稼げる。
ここにデメリットは無い。
もし『大失敗』をしてしまえば、逆に膨大なポイントが手に入るわけだ。
それで百万ポイントに到達する可能性もゼロではない。
まあ、ポイントの倍率的にあまり期待はできないが……
「よし。目標は見えた。いいだろう。このゲームは俺が攻略してやろう」
「ふ、さすがやられ役。懲りないアホ……じゃなくて、諦めない強い精神力の持ち主ですね」
「お前、一瞬俺の事をディスりかけただろ!」
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