死亡フラグと三つのゲーム
第4話 やっぱり主役は優しい?
人は誰でも『主役』になりたいと思うものである。
主役は何をやってもうまくいく。誰からも尊敬されて、多くの人から支持される。
俗に言う人生においての勝ち組というやつだ。
なるほど、憧れる気持ちはよく分かる。かつては俺もそうだった。
だが、そこに決して忘れてはいけない事実が一つある。
そんな主役様が活躍するためには、優秀な『やられ役』が必要不可欠なのだ。
むしろ、やられ役がきちんと役割を果たすからこそ、主役は美しく輝く。
つまり、重要なのは主役ではなく、やられ役である。
輝くのは主役だが、その陰の功労者こそがやられ役。
そう考えたら、やられ役こそが真の正義であろう。いや、これはもう救世主だと言っても過言ではない!
そしてやられ役はどれだけ負けてもへこたれない鋼の精神力の持ち主でもある。やっぱ一番かっこいいのはやられ役だな!
「ぐふっ!」
そんな俺は今日もまた、主役のアリスとの戦いに破れる。時間も場所も昨日と全く同じ。放課後の学校の屋上だ。
もっと言えば、負け方も同じであった。
「…………」
俺を見下ろすアリス。風で靡く髪を抑える姿は、やはり美しい。
まあ、世間様からしたら、一番かっこいいのは主役だよな。今のアリスを見ると否定できないのは悔しい所である。
「おつかれ! いい勝負だったね!」
そんな事を考えていると、アリスが笑顔で俺に向かって手を差し伸べてきた。
「いつもろくに話もできずにごめんね? 忙しい日が続いていたんだ」
その言葉に悪意はない。もっと主役って偉そうなイメージだったが、彼女は違うようだ。
「私さ、君のことを尊敬しているんだ。君はどれだけ負けても、私との勝負からは逃げようとしない。その諦めない心は素晴らしいよ」
おいおい、そんな事は初めて言われたぞ。
主役なので、クズのやられ役に情けをかける必要なんてないのに、相手を誉めるその姿勢は、彼女の素の性格なのだろうか。
主役……俺の大嫌いなチーター。
だが、そんな強くて美しい主役は、最底辺の俺を唯一尊敬すると認めてくれた。
何とも複雑な気分だ。
最近の主役は性格も良くなくてはいけないのかね。俺みたいなクズが選ばれないわけだな。
「さ、早く立ちなよ。こうしているのも、意外と疲れるんだぞ?」
「ああ、悪い」
そうして、アリスの手を取ろうとした瞬間……
「キャー! アリス様、素敵ですぅ!」
女子生徒の大群がアリスに押し寄せた。彼女のファンクラブの皆さんである。
「おっと」
間一髪で、その雪崩を回避する俺。最強の俺は、反射神経には最も自信があるのだ。
「アリス様! かっこいいです! さすがです!」
「う、うん。その……ありがとう」
ファンに称えられて、真っ赤になった顔を逸らすアリス。褒められるのは苦手らしい。
「ふふ。照れているアリス様も素敵です」
「さあ、私と一緒に帰りましょう。アリス様」
「いいえ。私と帰るのよ!」
気付けば周りはアリスのファンで埋め尽くされていた。もはや俺の居場所など無い。
「お、落ち着いて。みんなで帰ろう。ね?」
「そうですね。みんなで帰りましょう。さすがアリス様!」
そうして、アリスはファンに引っ張られて屋上を出て行く。主役は本当に人気者だな。
去り際に一瞬だけアリスが俺に対して申し訳なさそうな目を向けてきたが、俺は「気にすんな」って目で、彼女にアイコンタクトを返しておいた。
気を遣わせる必要はあるまい。
ただ、結局アリスと熱い握手を交わすことは出来ずじまいだ。
いや、やられ役が主役様と握手なんて、最初からおこがましい話だったのかもしれない。
さて、これからどうするか。
同盟を組んたものの、今はサチもいないし特にやることはい。
『ピコン! あなたは100点の『やられ役ポイント』を会得しました♪』
脳内に可愛らしくてムカつく声が響く。あの時の神様代理の声だ。
「ああ、『ポイント』が貰えたか」
神ノ町の特殊ルールその2。
自分の属性を全うすることでポイントが支給される。
このポイントは、そのままお金として使う事が可能であり、汎用性が高い。
つまり、うまくやられ役をこなしたことで、神様からお小遣いをいただいたわけだ。
「100点かよ。少ねえよ」
とはいえ、100円では何もできない。
もう少したくさんポイントが欲しい所である。
うまいやられ方をするほど、このポイントは高くなる。やられ方の審査をされているのだ。
例えば「俺、この戦いが終わったら結婚するんだ」とか言って戦いに挑めば、最高級のポイントがもらえる。
俗に言う死亡フラグ……ならぬ、やられ役フラグだ。
まあ、死ぬのは嫌だから、絶対にやらないけど。
やられ役ならともかく、『殺られ役』になるのはごめんだ。
ただ、俺がいつもアリスと勝負をして負けている理由は、これが関係していた。
どうせ負けるなら、主役と戦って負けた方がやられ役らしい。俺はあえて悪役となろう。
特に最強の強さを持つ俺が、主役と戦って負けるのは、見ごたえがある。
逆で言うなら、主役が最強相手に対して、勝利する部分が絵になるのだ。
これがその辺の一般人なら全くポイントはもらえなかっただろう。
アリスだからこそ、100点のポイントが貰えたと思うべきだ。
アリスの方も最強の俺を倒してポイントが貰えているはずだ。
だから俺は勝負の事をいつも『仕事』と呼んでいる。互いにポイントを稼ぎあう相互扶助のような関係だ。
「やっほー。元気してますか?」
その時、空から誰か降りてきた。
俺をやられ役にした張本人にして美少女である神様代理だ。
「……代理ちゃんか」
「その呼び方、やめてくれません? 私はこれでも神様の眷属ですよ」
神様代理では呼びにくいので、俺は省略して、彼女の事を代理ちゃんと呼んでいる。
神聖なる神の一族をそんな愛称で呼ぶのは、クズの俺くらいのものだろう。
「どうせなら天使ちゃんって呼んでほしいですね。そっちの方が可愛いです」
「却下。全然天使らしくないし、たまに毒も吐く」
「むう、やられ役のくせに生意気ですぅ!」
「大丈夫だ。代理ちゃんって呼び方の方が可愛いぞ」
「本当ですか!? ならばその呼び方を許可します。ふふふ~」
にへら~と笑う代理ちゃん。
この単純さを見れば、神の一族は結構ポンコツだと分かる。
「おっと。そんな話をしている場合ではありません。実は、今日はあなたに重大なお知らせがあって来たのです」
「重大なお知らせ?」
なんだろう。まあ、ポンコツ代理ちゃんのことだから、どうせくだらん事だろう。
「あなたは、今から一年以内に死んでしまうのです!」
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