ぼくのかんがえたさいきょうのミサイル

ちびまるフォイ

我が国民の命は何よりも大事

長引く戦争は先進国の頭を悩ませていた。


「博士、もっと強力な兵器はないのか。

 これ以上戦争が長引けば我が国の命がまた失われる」


「強力なミサイルを前に作ったじゃないですか」


「あれはダメだ」

「どうして?」


「どういうわけか、敵の部族の国に打ち込むと

 かならず手前の海に沈められてしまうんだ」


「それはまたどうして?

 あのミサイルは完全ステルスだったはず」


「知らないのか。あの部族は昔から狩りをなりわいとしている。

 鳥の羽ばたきから、葉の揺れまで音で感じ取ってしまう」


「……というと?」


「いくらレーダーに映らない完全ステルスだったとしても、

 飛んでくる音を何キロ先から聞き分けて撃ち落とされるんだよ」


「なるほど。では無音ミサイルが必要ですな」


「話がはやくて助かる。博士、頼んだぞ」


博士はミサイルの研究チームを作って改善を続けた。

昼夜問わず研究と開発をした結果、ついに無音ミサイルが完成。


「閣下。ついにミサイルが完成しました」


「待っていたぞ。本当に無音なんだろうな?」


「もちろん。このミサイルの飛行音は蚊の羽音よりも小さい。

 どんなに耳が良い人であっても聞くことはできません」


「ようし、それじゃさっそく使おう!」


「ちょ、ちょっとまってください閣下。

 まだテストしてないじゃないですか」


「むむ。だが、自信はあるのだろう?」


「ええ、まあ。開発過程では何度もテストしてますが……」


「なら問題ないじゃないか。実際に撃ってどうだったか。

 実地テストと、敵の殲滅が同時にできれば一石二鳥だ」


「はあ……」


「全軍、このミサイルの配備を急げ!」


閣下の命令により新型ステルス無音ミサイルは実戦投入された。

既存のミサイルから置き換わり、無音ミサイルは敵地へと連射された。


それからしばらくして閣下がまた研究室を訪れた。


「博士、いいたい事がある」


「どうしたんですか閣下」


「あのミサイルは失敗だ」


「え!? 無音なのに!?」


「とにかく、ミサイルは一発も着弾せず海のもくずとなったよ」


「そんな……」


「博士、私は最前線で指揮をとってわかったのだ。

 奴らがどうしてミサイルを撃墜できたのかを」


「教えてください閣下。敵はどれほど高性能なレーダーを持っていたんですか!?」



「目だ」



「め?」



「そうとも。やつら、異常に目がいいんだ。

 何十キロ先のミサイルも目で見つけてしまう。

 一度見つければ弓矢で軌道を変えられてしまったんだ」


「それじゃ、無音にしても、高性能ステルスにしてもダメだったのは……」


「単純に肉眼でミサイルの接近に気がついてしまったからだ」


「そんな無茶苦茶な……」


「だが、これで次に取るべき行動が決まったな、博士」


「え?」


「奴らが肉眼でミサイルを見極めているとわかった以上、

 次に作るべきは透明なミサイルだ」


「な、なるほど……!」


「いくら金がかかってもよい。透明なミサイルを必ず完成させるのだ!!」


「はっ!!」


ふたたび博士および研究チームは新型ミサイルの開発を急いだ。

幾度もの失敗を経験しながら、透明なミサイルの開発に成功した。


「閣下、見てください! ついに完成しました!」


「こ、これが透明ミサイル……。本当になにも見えん」


「表面に透明な塗料を塗っているだけなんですがね。

 どうです。これなら敵に見つかりっこないでしょう?」


「ああ、まちがいない。しかしここは万全な状態で挑もう」


「なにをするのですか?」


「前回は実地テストと実戦投入を同時にやった結果、

 何発ものミサイルをダメにしてしまったからな。

 

 今度は実践前にちゃんとテストしてから、

 実戦で使えるかどうか見極めようと思う」


「閣下、学習したんですね……!」


「当然だ。ミサイル試験の結果は追って伝える。

 使えるようであれば量産を急がせろよ」


「はい、閣下!!」


「これ以上、大切な国民の命を散らせてたまるか」


やがて閣下は透明ミサイルを何基かを持って、実地テストへと向かった。

しばらくしてから、閣下はぷんぷん怒りながらやってきた。


「博士! 博士はいるか!!」


「はいここに。閣下、いったいどうされたんですか?」


「どうもこうもない! 透明ミサイルなんて不良品を押しつけやがって!」


「不良品だなんてそんな!」


「いいか、ミサイルというのは狙った場所に着弾するから意味があるんだ。

 なのにお前のつくったミサイルときたらまったく……!」


「着弾しなかったんですか!?」


「ああ! 着弾連絡なぞ一度も来なかった!!」


「そんなはずは……。透明な塗料を塗っただけで、

 中身はこれまでの無音ステルスミサイルそのものですよ」


「言い訳はいい! できそこないのミサイルを作ったという実験結果だけが事実だ!」


閣下の怒りは頂点だったが、博士はむしろ疑問に思っていた。


「閣下、その実験結果を見せてもらえませんか?」


「今言ったとおりだ! 3回も実験して3回も失敗したんだぞ!!」


博士は受け取った実験結果を見て閣下に再度聞いた。


「あの……閣下、無礼は承知で聞くのですが

 どういった実験をしたのでしょうか?」


「いいだろう教えてやる。まずこのミサイルはステルスだろう。

 敵国はおろか我が国のレーダーでも補足はできない」


「ですね」


「そして、透明だ。目視でも見ることができない」


「はいそうです」


「だが、ちゃんと目的地に着弾するかどうかをテストする必要があるな」


「そのためのテストですから」




「そこで、吾輩は着弾点に我が国の優秀なエリート部下を配置し、報告を待つことにしたのだ」



「……」




「だが! 3回も撃って、3回も着弾したという連絡が来ていない!

 これはどういうことだ! ミサイルはまるで着弾してないじゃないか!!」


怒り散らす閣下に対し、博士は気まずそうに答えた。



「その合計3名の部下には、今連絡は取れるんですか……?」

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