第59話 フルハウス(3)

 いちど、のぶが自分に配られた「手」をぜんぶ捨てて、交換できるカードから新しく五枚のカードを拾ったことがありました。かなえは、どれかのカードは「手」に残していないといけないと思っていたので、

「あ、そういうのやっていいの?」

と声をかけると、のぶ子は

「うん」

と平気で言います。

 それで、かなえは、自分のところに来たカードが、絵札もエースも一枚もなく、ひと組もそろっていなかったときに、ぜんぶ捨てて拾い直しました。そうするとエースが三枚来たのですぐにストップをかけました。もちろんかなえの勝ちです。のぶ子はべつにくやしそうな顔もせず、カードをりながら

「山って何が隠れてるかかわらないね!」

と言います。

 「山って?」

 かなえがききます。のぶ子はあっさりと答えました。

 「ああ、この交換できるカードの山のことを「山」って言うんだよ」

 「ああ!」

 声を出したのはそのひと言だけでしたが、かなえは、これはのぶ子はこのゲームが強いわけだと思っていました。

 これは「山師やまし」の仕事なのです。

 「山師」は、上からは見えない山の地下に、金とか銀とか宝石とか、またレアアースとか、だいじなものが隠れていないか、いろいろ考えてたしかめる仕事です。

 いまやっているのは、自分のところにある札だけを見て、あとは相手の表情を見て、相手の「手」にいま何があるか、まだ交換していない札の「山」に何があるかをさぐるゲームです。

 これは「山師」の家の子ののぶ子には勝てないわけです。

 それでかなえが何度もくやしい思いをさせられたのですが、一度だけ、のぶ子をくやしがらせました。

 それは、かなえが、「5」で二枚組がひと組できて、もう一つ上を狙ったときでした。あとの札は「7」と「2」と「3」で、弱い札ばかりです。三枚とも捨ててもよかったのですが、そのなかでもいちばん強い「7」を残してあとの二枚を捨てました。そうすると拾った札で「5」と「7」が来たので、「5」が三枚揃いました。そこでストップをかけたのです。

 ところが、そのときのぶ子はキングを三枚揃えていたのです。

 しかも、いつもどおり気弱でちょっと笑っていたので、ぜんぜん気がつきませんでした。キング三枚には「5」の三枚では勝てません。くやしいので

「負けた!」

と大声で言うと、のぶ子は眉を寄せて首をかしげました。

 「どうして?」

 「だって、のぶ子、キングの三枚でしょ?」

 「それはそうだけど」

 のぶ子はかなえのほうに身を乗り出しました。

 「これ、フルハウスだよ。だからかなえちゃんの勝ち」

 「何それ?」

 のぶ子は短くうつむきました。それから、ほっ、とため息をついて、

「そうか。さっき、言ってなかったよね?」

と言います。

 のぶ子は落ちついた声で説明しました。

 「これ、三枚揃いと二枚組みでしょ?」

 「ああ」

 そう言われれば、そうです。「5」を三枚揃えたことに気をとられていましたが、「7」も二枚揃っていたのです。

 「こういうの、さ、フルハウスって言って、すごい高い「役」なんだよ」

 「そうなの?」

 「今日は、番号の順番を揃えるとか、印を揃えるとかはなしでやってるけど、そういうのを入れたとしてもわりと強い「役」なんだよ」

 「そうなの?」

 「だから、かなえちゃんの勝ち」

 言って、のぶ子は目を伏せたので、かなえはのぶ子が泣き出すのかと思いました。でも、のぶ子はすぐに顔を上げて、またあのあいまいな笑いでカードを集めて繰りはじめましたので、二人はそのままゲームをつづけました。

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