第15話 庚申堂(2)

 「枝をはらったりしなくても木が元気なのって、めずらしいの?」

とかなえがききます。

 「木によるんじゃないかな?」

 のぶの答えもはっきりした答えではありませんでしたが、どちらでもいいと思いました。

 それで、言ってみます。

 「いろいろ知ってるんだね、のぶ子」

 「ま、山師やましの子だから」

 のぶ子は、言って、くくっ、と笑いました。

 あ、笑うんだ、この子でも、と思ってのぶ子の顔を見ると、のぶ子はおもしろそうに笑顔をつくってかなえを見ています。

 口はあいかわらずだらっと開いていましたが、なんだかいたずらっぽそうです。

 それからのぶ子はあらたまって手を前にそろえてかなえに頭を下げました。

 「えっ?」

 そんなあいさつをされるつもりはなかったので、かなえはとまどいました。

 「何? 何?」

 のぶ子は顔を上げて、

「ごめんね。朝、助けてくれたのに、すぐにお礼言わなくて。それに、ありがとう」

と言います。

 少し重たい言いかたでした。

 「あ、いいのいいの、そんなの」

 たしかに、ありがとう、って言ってくれないのかな、とは思っていたのですが、実際に言われてみると、なんだかどうしていいかわからない気もちです。

 それで、どうしよう、と思いました。

 のぶ子に街を案内してあげたいとも思いました。

 でも街のほうに出ると、あのいじめ男の子たちに会うかも知れません。家に戻るとおばあちゃんと妹が遊んでいます。

 それで、顔を上げると、ふとあの庚申こうしんどうが目にとまりました。

 いたずらな気もちがきました。

 かなえは庚申堂のほうを振り向いて言いました。

 「ね。あそこのお堂のなか、いちど入ってみない?」

 「え?」

 のぶ子は首をかしげます。

 「いいけど、入っていいの?」

 「うん」

 かなえはこれまで何度か入ったことがありますが、止められたことも怒られたこともありません。

 のぶ子はあいかわらずふしぎそうな顔をしていましたが、

「じゃあ、行ってみよう」

とぽつっと短く言いました。

 木の段の下で靴を脱ぎ、木の廊下ろうかから表の障子しょうじを開けます。

 最初、がたっとしただけで動かなかったので、知らないうちに鍵をかけられたかな、と思いました。でももういちど引いてみると扉は何度も引っかかりながらずるずるっと開きました。

 なかの左右は壁ですが、向かい側は障子で、明かりが入って来ます。

 かなえがなかに入ると、のぶ子もついて部屋に入ってきました。

 湿しめっぽくてひんやりした空気がかなえを包みます。

 後ろでのぶ子がすっと障子を閉めました。いきなり閉めたのでかなえはひやっとします。

 障子しにしか明かりが入らなくなり、うすぐらくなりました。

 でもそのかわり天井のほうまでほの明るく見えます。障子がぼんやりと外の明かりをひろげてくれるので、雪降りの日のように天井も明るく見えるのでした。

 なかにはなんにもありません。

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