第11話 『妖術』

 親子、或いは姉妹のようにも見える二人を見つめながら、ユウはつい先刻の出来事を思い返していた。


 あの妖術——知っている。過去に一度だけ、どこかで見たことがある。

 けれど、どこで見たかまでは思い出せない。

 しかしあれを見たのは、間違いなく『桜花』の中だった。つまり、使用したのは妖の誰かだ。


 いつだ。誰が使っていた。

 思い出せない。


 知っているということは直感したのに、それが何であったかまでは、はっきりと思い出せない。

 肝心なところに靄がかかって、すぐそこまで出かかっている記憶があと一歩浮上して来ない。


 誰だ。誰が使っていた。

 ——思い出せない。


 知っている。知っている筈なのに。

 何度思い起こそうとしても、思い出せないまま。


 それに——


(あの力は……)


 ユウは小川の方に目をやった。

 先の妖魔——妖憑が、自身を投げ飛ばしたところだ。

 浅瀬とは言え水中にも関わらず、ユウが思い切って踏み込んだ箇所は、大きく深く抉れていた。


(あれは僕じゃない——僕の力じゃない。全力で踏み込んだって、あんなことにはならない)


 それだけではない。戦いの最中、ユウは一瞬、自分が自分でないような心地を覚えていた。


(あの力は、一体……)


 自分のものとは思えない力——妖憑、ミツキのことと併せて、ここから先の世界を知れば、分かって来るものなのだろうか。


 そんな聊かの不安を覚えながらも、今はただ、任務を無事に遂行し目の前で微笑みあう妖と妖魔のことを護ることに意識を向けた。

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