おおかみとひまわり

さらやまた やをひろ

1

むかしむかし

ある森に、小さな女の子と

しゃべるオオカミがくらしていました

いつものように、ふたりで森をさんぽしていると

大きなひまわりをみつけました

女の子は、いっしょうけんめいに背伸びをすると

おおきな声で


「こんにちは!!!」


とあいさつをします

しかし、ひまわりは空をながめるばかり

女の子には気づきもしません


「もぉ〜!またむしされた!」


ほほをふくらませスネる少女をみて

オオカミはやさしい声でこう言いました。


「きみが大きくなるころには…きっと気づいてくれるだろう」


それからふたりは歩きます

まいにち

毎しゅう

毎年と

そのうち背丈も大きくなり

傍にいたオオカミはもういません


彼女はまた…いつもの様に散歩をします

いつも通りに散歩をします

そうして一人で歩いていると

くたびれた大きなひまわりがありました

彼女はほんの少しだけつま先立つと

その顔に触れ挨拶をします


「こんにちは、ひまわりさん」


「やぁ…こんにちは…お嬢さん」


優しくしゃがれた声で返事をすると

ゆっくりと顔を向けたまま背筋を伸ばし

彼女に語りかけてきます


「それにしても…見ない顔だねぇ…初めまして…最近ここにやって来たのかい?」


「ふふ…酷い方ですね、私はずっっっと貴方に挨拶していましたよ?」


「そうですか…それは失礼…足元が見れるようになったのは…つい最近の出来事で」


イタズラっぽく笑う彼女に

ひまわりは困ったように返事をすると

今までの事について話し始めます


「それにしても…本当に驚きました…この世には…

太陽と月と鳥しか居ないものだと…私は思っていましたからね」


「人を見るのもこれが初めて?」


「えぇ…鳥から話は聞いていましたが…直接見るの初めてですね…想像以上に綺麗です」


「貴方も相変わらず素敵ですよ」


「ははは…ありがとうございます…」


それからというもの

二人は会うたび

話をしました

互いに互いの知らない物事

または立場が違えど共通すること

本当に…多くの言葉を交わしました

そしてある日

彼女がいつも通りに歩いていると

地面に横たわるひまわりの姿がありました


「こんにちは、ひまわりさん」


「…」


「ひまわりさん?」


「…あぁ…お嬢さん…失礼…最近…よくうたた寝をしてしまうのです…」


「…そうですか、貴方もそうなんですね」


「お嬢さんも…よく…うたた寝を…?」


「いえ…私の友人が好きなんです…うたた寝」


「そうですか…それはいい…今度…紹介してくださいね…きっと…素敵なうたた寝仲間に…なれるはずです」


「そうですね…」


ひまわりはまた…ほんの少しだけ静かになると

ポツリポツリと言葉をこぼします


「最近…新しい友達が…出来たのです」


「どんな方なんですか?」


「彼らは…アリという生き物で…とても小さな生き物です…お嬢さんがいない間は…彼らが…話し相手になってくれて…いるんです」


「それは素敵な方達ですね」


「えぇ…しかも彼ら…自分よりも…大きなモノを…運べる凄い方達で…私から抜け落ちた花弁を…お礼を言いながら…もって帰るのです」


「…」


「有難い話です…もう私には…不要ですから…」


「それは…なによりですね」


「えぇ…本当に…」


そして次の沈黙は数分にもわたり

彼女はじっと…喋り出すを待っていました


「そういえば…長いこと…空を眺めていません…太陽の方角も…忘れてしまいました」


「東から上り西に沈む…ひまわりさんから教わりました」


「あぁ…そうでした…ありがとう…」


「どういたしまして」


「…ねぇ…お嬢さん…」


「なんですか?」


「いいものですね…ずっと昔は…空だけだった…

時が経つのは…いいものです…」


「…そうですね」


それから彼女はじっと待ちました

あの時と同じよう

喋り出すまでじっと待ちました

ただ…ひまわりはそれから

また喋り出すことはありませんでした

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