第152話 変わり者の推理

その日の夜、俺は遅くまでリビングにいた。

龍神とナイアと、3人で話をしていたのだ。

…というよりは、2人に話そうと言われたのだが。


「話…って、なんだよ?」


「考察だよ」


「え?考察…?」


「えっと…考察っていうか、推理っていうか…まあ、なんだ。ちょっと考え事をしようと思ってな」


「考え事…」

そこへ、ナイアが麦茶をおぼんに乗せて持ってきた。


「ま、ちょっと長くなるだろうからさ。これ飲みなよ…酒、ってわけにはいかないから、お茶だけどさ」


「あ、あぁ…」


テーブルに麦茶を置き、ナイアは座り込んだ。

龍神は俺の向かいに座り、俺たちは三角形に向き合って座った。


「この麦茶…確かナイアが作ってるんだよな」

龍神はグラスを持ち上げ、見上げて言った。


「ええ…何か?」


「いや…昔、麦茶を飲むと何故かもれなく腹を下してたんでな」


「なに…今のでそれを思い出したの?」


「ああ。…あ、変な勘違いするなよ?純粋にただ思い出しただけだから」


「別にいいけど」

昔、というのは一体いつのことなのだろう。

龍神は記憶力がやたら良く、本当に昔の事…俺や猶が全く覚えていないような事でも、詳細に覚えていることがしばしばある。

もっとも、嫌な事も忘れられないのでそこは辛いらしいが。

「で、本題だが…まず、明日からはどうするんだっけ?」


「件の殺人鬼を探すんだ。王女様が情報を持ってきてくれたしな」

イーダスの妹…ジームリンデ、だったか。彼女は城の内情だけでなく、件の殺人鬼に関しての情報も持ってきてくれたのだ。

それによると、奴はちょうど現在この村近辺に出没しているらしいので、このまま村に滞在して奴を捜索することにした。


「そうか…」

龍神は茶を一口飲み、頬杖をついた。

その目は相変わらず冷たく暗かったが、何となく言いたいことがあるように見えた。

「何か、言いたげだな?」


「まあな…あの王女に関してなんだが、色々と…な」


「色々と?」


「ああ。というか、今度の話…色々と妙だと思わないか?」


「妙、って言うと?」


「王女様が出てくるタイミングとか、入城に関してとか…とにかく色々とおかしいと思うんだが?」

いまいちピンとこずにいると、ナイアがわかりやすく言い換えてくれた。


「一つ一つ説明するね。まず、連絡が通ってるはずなのに事実上城に入れなくなってる、っていうのはおかしいよね?」


「それは…そうかもしれんが、城の中で色々起こってるみたいだししょうがないだろ」


「確かにそうだ。だが、考えてみろ。向こうの王には、アルバン王からの連絡が行ってるはずだよな。なら、見せかけだけでも平常を取り繕おうとするもんじゃないか、普通?」

やっぱり、ちょっとピンとこない。

だが、考えてみれば、もし王と軍師がグルで俺たちを潰そうとしてるとして、王女や王子にわかりやすく混乱してる様子を見せたり、話を聞かれるような場所で計画を練るのは妙…かもしれない。


「さっき王女様が言ってたよな。王様は、王子がいなくなったことを知って焦った。王女は、あくまで便利な駒がなくなったから焦っただけだろうと言ってたが、果たしてそれはどうだろうな。祈祷師に抱き込まれても、自分の子供を想う気持ちは健在だったって可能性もある」


それを踏まえてだな、と龍神は言った。

「王はアジェルに殺された、って話だったよな。もし奴が、王を利用して俺たちや王子たちを始末させたいんなら、確実に死んだって確認も無しに王を殺すはずがないよな?」


それは確かにそうだ。だが、まだそこからつながる考えがわからない。


「それと、奴は王の遺書も偽造したって話だったな。それに書いてあったことは、十中八九奴の理想だろう。…ちょっと回りくどいが、もし奴の狙いが初めからそれに書かれた…いや、書いたことだとすると?」


「…」

遺書には、確か自身の死を隠すことやアジェルを国王代理にすることなどが書かれていたと王女が言っていた。

もし、それこそが奴の目的だったとすると…。


「国を乗っ取って、好き勝手するのが目的か?」


「それだけならいいんだがな。…じゃ、これを覚えとけよ。次の話だ。王子はともかく、王女は色々と都合が良すぎると思わないか?」


「というと?」


「そもそも、このタイミングでこれから倒そうとしてる殺人鬼の話を持ってくるなんて、こっちにとって都合が良すぎないか?」


「…そうか?」


すると、龍神は変な咳払いをした。

「…いい。ストレートに言おう。あの王女、本当にまともなんだろうか?」


「どういうことだ?」


「自分の、健全かつ独立した一個人の異人としての意思を持って動いてるんだろうか、ってことだよ。もし、そうでなかったら…?」


わけがわからずにいると、ナイアが口を挟んできた。


「ここに来る前、私が受けた託宣を覚えてる?『ビルカダールの村で出会う人こそが、事件解決のカギ…』」

それで、俺はふとその人の正体が気になった。

美羽のことだろうか、それとも…。


「『…二つの怪人に気をつけろ』。だったっけ。それが、何か関係あるのか?」


ナイアは、身を乗り出して言った。

「あの王女様、異形なんじゃないかな…って」


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る