第135話 国が為に策は成る
それから数時間後。
俺達は、馬車の中にいた。
一応、酒場には行った。クエストの完了を報告しなければならなかったからだ。
ただし、イーダス王子には先に馬車に行っててもらい、マスターにも王子のことは言わなかった…彼自身のたっての希望に従ったのだ。
で、報告とマスターとのちょっとした会話を終えて馬車に戻ってきて、しばらく雑談をして、今に至る…と、いうわけである。
馬車のみんなは、彼がイーダス王子であると知って驚き、また歓喜していた。まあ、張り切る気持ちはわからなくもない。
ちなみに当の王子は馬車の内装を見て驚き、同時にどこか既視感も感じたという。
なんでも、ロードアの城と似ているらしい。
それは結構なのだが、一国の王城と内装が似ているとは…。
この世界には、この馬車のように内装がすごいことになってる乗り物などいくらでもあるらしいが、そうにしてもこの馬車は豪華であることが、これで証明されたと言える。
王族が驚き、しかも既視感を感じるというのだから、この豪華さは本物だ。
さて、今は雑談を終え、情報をまとめてこれからのことを話していた。
アラルの町の中にアンデッドがいた事を話したら、王子は驚きつつも「やはり、そうか…」と悲しげに言った。なんでも最近、国内の各地の集落にアンデッドや異形が入り込んでくるようになったらしい。
「しかし、アラルにまでアンデッドが入り込んでくるとは…」
王子は肩を落としていた。
出てきた情報をまとめると、このようになった。
今現在、城下町だけでなくこの国自体に異変が起きており、その内容は浪人全体の妙な活発化や各地の集落へのアンデッドの侵入、そしてロードア王城内の混乱といったもの。
そしてこれらの元凶ははっきりとしないが、最近王の元に軍師として入ったという男、アジェルが怪しい。すべての異変は、そいつが来てから起こるようになったからだ。
いつもフードを被り、顔をまともに見せないというその男は、龍神やイーダス王子の情報や推察によるとおそらく祈祷師の類いであり、裏で良からぬ事をしている組織と糸を引いている。
町にスペクターを呼び入れ、人々に取り憑かせたのも奴だろう。その目的は不明だが、早く捕らえねばならない。
そのためにも、城へ向かわなければならない…のだが、これがなかなか面倒なことになっている。
まず、ロードア城の内部はイーダスの話にもあった通り混乱状態になっている。エウル王の話は通っているから、入れないことはないだろう。だが、入ったとして無事に帰れる保証はない。
イーダスは王子だが、元より彼は利用される予定だった存在。王の元に戻ったところで、また何かに利用されるのは目に見えている。
そもそも、彼は黙って城を抜け出してきた身だ。その意味でも、のこのこと帰るわけにはいかない。
それに、俺達が彼についていけば、最悪みんな揃って悪人扱いされるかもしれない、と王子は言う。
「あなた達は僕を救ってくれた恩人だ。迷惑をかけるリスクは、可能な限り減らしたい」
気持ちはわかるしありがたいが、そうなるとますます問題が難解になる。
俺は、腕を組んで唸った。
「うーん…となると、客人を装って入るか密かに侵入するか、かな…」
すると、煌汰に反対された。
「無理だよ。城に客人として入るには、王専属の軍師の認可が必要だ。そんなの、何も知らないでのうのうと挨拶しにいくのと同じだ。こっそり侵入するにしても、ロードア城の警備はかなり厳しい。内通者でもいればともかく、隠れて侵入するっていうのは無理があるよ」
「そうか…となると、どうすりゃいいんだ…?」
すると、龍神が言い出した。
「なあ、1つ確認なんだが…ロードアって、昔は特別危険人物指定されてる異人か、特定高位異形を倒してのけた奴には、王から特別な褒美を授けてたよな。あれ、今もあるのか?」
「…『勇気と力の報酬』のことか。それなら、今もある」
軽く説明を願ったところ、要は危険な存在として国及びギルドから指定されている異人や異形を倒したことが確認された者に対し、国王から恩賞を与える…という制度らしい。
「でも、それがどうかしたのか?」
「それを貰う時には、対象者が城に呼び出されるよな。…これを使うのはどうだ?」
「えっと…つまり?」
龍神は、DVDくらいの大きさの三角形の黒い物体を取り出した。
「こいつは『バリーラット』、通称『中継地点』って言われる魔法道具だ。これを置いておくと、いつでもそこにワープすることができる…まあ、簡易的なワープ装置だな。設置者以外には基本見えないから、下見の時とかに持ってきて置いてく…って使い方をする代物だ」
「へえ…で、それをどう使うんだ?」
「城に入ったら、適当な所でこいつを設置するんだ。どこでもいい…壁とか天井にもくっつけれるからな。何なら、直接くっつけなくても念じるだけで設置できるぜ。で、後でみんなして城内にワープして、王様に直談判しつつ怪しい奴を潰す、って寸法だ」
まあ、悪い戦法ではなさそうだ。
だが、そこに至るまでの過程がまだはっきり決まっていない。
「うーん、悪くはないかもしれないが…そもそも、城に入るには手柄を立てなきゃないんだよな?ギルドにも国にも目をつけられような異人なり異形なりを倒すなんて、そんなこと俺達にできるか?」
「う…確かにそうだな。相手はクレシュでいいとして、問題は倒せるかだな…」
「クレシュ…って例の殺人鬼か。というか、あいつのこと知ってたのか」
「そりゃ、同じように指名手配されてる同族だからな。…あいつは異能と、闇と月の術を使って『影』を作りたがる。けど、逆に言えば影さえ封じられれば何とかなる」
そこまで言って、龍神ははっとした。
「そうだ、このチームに
星術なら僕が使えるけど、と煌汰が言うと、龍神は「いや、知ってるよ。ブレイブのメンバーの他にいないか?って話だよ」と言った。
しかし、その場にいた者は誰も名乗りを上げなかったため、龍神は残念そうに言った。
「マジか…そんな難しい術じゃないから、使えると思ったんだけどな」
すると、1人が声を上げた。
「何を勘違いしているのでしょうか?」
龍神は、声の主の方を向いた。
「…え?」
「名乗りを上げないだけで、術の使用の可否を判断しないでいただきたいものですね。少なくとも、私と吏廻琉は星術を扱えます」
声の主は、苺だった。
「ありゃ。てかあんた、ひょっとして…サンライトの大司祭様か?…いやいや、これは失敬。確かにあんた程の方なら、使えないわけないな。それなら、みんなにコピーしてもらって…うん、いいな!完璧じゃんか!」
吏廻琉は苺を見、そして龍神を見た。
その目は、彼をあまり良く思っていないという目だった。
「…はあ」
苺はため息をついて言った。
「私と彼女…吏廻琉は間違いなく星術を扱えます。ただ、軍の皆さんに術をお教えするのには長い時間がかかります」
「っ…。そうか…まあ仕方ないか」
「話は最後まで聞きなさい。…確かに、私達では皆さんに術をすぐに伝授することはできません。しかし、私の母なら可能なはずです」
すると、吏廻琉が驚いた。
「苺。あなたのお母様って…」
「ええ。私の母は、かつて司祭カトリアの友人だった大賢者セニア。あの方なら、この軍の皆さんに星術を覚えさせることも容易にできる。…皆さん。ここは一旦進軍を中断し、セドラルにいる私の母の元へ赴きましょう。皆さんが星術を習得できれば、これからの戦いも有利になるはずです」
大賢者、というのが気になったが、今はこう答えるのが先だ。
「もちろんだ!…王子も、いいよな?」
当の王子は口をあんぐり開けてなにかつぶやいていたので、声をかけた。
「…あっ!そう…だな、術を容易に習得できるならありがたい。そうしよう!」
「よし。じゃ…その大賢者様の所に行こう!」
「ありがとうございます。…」
苺は何やら言いたげだったが、それを口に出すことはなかった。
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