1章・物語の始まり

第1話 異人の性質

村に近づいた途端、キョウラはなぜかフードを被った。


「どうした?」


「少しわけがありまして…」


「わけ?」

気にはなったが、言いたくなさそうだったので詮索はしなかった。



そうして、俺達はメルスの村に戻ってきた。

「そしたら、まずは…」


「まずは?」

キョウラは俺をじっと見てくる。


「まずは…そうだな…」

やばい、どうすればいいのかわからん。

当たり前だが、俺は冒険なんてしたことないし、こういう状況に直面したこともない。

かと言って、こんな熱い目で俺を見てくる女の子をがっかりさせる訳にもいかないし…。


苦悩の末、こう言った。

「…よし、とりあえず聞き込みだ!」


「聞き込み、ですか?」


「ああ、村の人達から話を聞いて回るんだ。

それで…その、盗賊達の被害の状況を確認するんだ!」


とりあえず、手当たり次第に人に話を聞く事にする。

最初は、村のはずれの家の前にいた若い男に話を聞いた。


「あの…」


「ん?お、見かけない顔だね。旅人さんかい?」


「まあ、そんなとこだ。この辺の盗賊について、話を聞かせてほしい」


「ああ…あいつらか…」

男は、途端に暗い顔になった。


「あいつらは、3ヶ月くらい前からこの辺に出るようになったんだ。

ここだけじゃない、このあたりの村とか集落の近くを通る人を襲うだけじゃなく、度々村に入ってきては家を漁ったり、女をかどわかしたり、やりたい放題してくんだよ。

しかも、奴らはどこから来たんだか、防人ばっかりなんだ。

だから、人間のオレ達は手が出せないんだ」


防人、って俺の種族だよな。

てことは、同族…か。

「奴らのアジトとか、どこにあるかわかるか?」


「東の洞窟を拠点にしてる…って話を聞いたことがある」


「そうか…」

その後もあちこちの人を当たって聞き込みをした。

それで得られた情報をまとめると、盗賊はみな防人という種族の異人。この近辺の村の者はみな人間であり、異人相手では手が出せず、どうにもできないでいる。

ここから東に行った所に小さな洞窟があり、盗賊達はそこをねぐらにしている。そして、奴らは大体週に一回くらいの割合で近隣の村を襲っており、先日も隣の村が襲われたばかりで、みな怯えている…ということだった。


因みに、人々は数日前にこの村を訪れた聖職者に盗賊退治を依頼したらしい。

その聖職者の名前を知る人はいないようだったが、その話題が上がるとフードで目を隠し、俯くキョウラの様子から何となく察した。


話を聞いてる途中で盗賊を退治しようと思ってると言ったら、驚かれたり、期待されたりした。

あんたら異人なら、どうかあいつらをやっつけてくれ、って頭を下げられたりもした。


異人と人間って、そんなに違うのか?と思ったのでキョウラに聞いてみたら、「大きく異なります」と言われた。


「異人は人間が進化を遂げた存在です。人間とは体の仕組みが異なる種族もいますし、そうでない種族もいます。

そして異人は、総じて人間より遥かに強靭な肉体と強大な魔力を持っています。なので、たとえ盗賊であろうと、人間の方々では抵抗が難しいのでしょう」


進化した人間…か。

SF映画みたいな話だ。

「あれ、てことは俺も人間と体の構造が違ってたりするのかな?」


「いえ、防人は有力種族の一種ですから、人間との違いはさほどないかと…」


「有力種族?」


「はい。この世界では、人間が異人になる場合は有力種族と呼ばれる種族の中から選ばれる事が多いんです。

具体的には、防人、戦士、術士、騎士、殺人者、の5つです」


なるほど…って、ん?殺人者?

なんだその物騒な名前の種族は。

「さ、殺人者…?」


「詳しくは私も存じ上げませんが、血と戦いを愛し、他者を傷つけ、命を奪う事にためらいのない種族だと聞きます。罪人として追われている者も少なくないとか…」


あー、そういう感じか。

要は、戦闘狂的な種族…なんだろうか。

「術士は、さらに修道士、祈祷師、魔法使いのいずれかに分岐します。いずれにもならないと、賢者という種族になります」


「へえ…あれ、てかキョウラは修道士…なんだよな、元々人間だったのか?」


「いえ、私は生まれながらの修道士です。

10歳の時に修道院に入ってから、30年ほど外に出ていませんでしたが」


「30年!?」

てことはなんだ、こいつは40なのか?めちゃくちゃ若々しくて、とてもそうには見えないが…

と思ってたら、キョウラは訂正するように言った。

「異人は、人間とは加齢の仕方が異なります。私の種族である『修道士』は、3年毎に1歳加齢する「3年の命」を持っています」


3年の命…って。

なんか、それだけ聞くとめちゃくちゃ短命な種族みたいだ。

てか、それをキョウラが持ってるって事は、キョウラにとっての30年は人間で言う所の10年ってことか。

とすると、キョウラは今20歳であることになり、この若さにも納得がいく。

「姜芽様の種族である『防人』は、4年の命を持つ種族…即ち、4年毎に一つ加齢する種族だったかと思います」


「あ、そうなのか?」


「ええ…はっきりとは覚えていませんが。

防人は、有力種族の中でも特に数が多く、この世界で最もありふれた異人の一種です。

自身の家族や友人、故郷など、愛するものを守るために武器を手に取って戦うとされる、勇敢な種族ですよ」


勇敢な種族ねえ…。

俺はそんな勇敢でもないと思うのだが。

「でも、俺はそんな勇敢な人間…いや、異人じゃないぞ?」


「いいえ、姜芽様はとても勇敢なお方です。異人になって間もないのに、異人に襲われていた私を助けて下さったではありませんか」


「それは…まあ…」

複雑なところだ。

あの時キョウラを助けようと思ったのは俺自身の意志だが、あの場での行動は無意識にとったものだ。


「例えあの戦いぶりが無意識によるものだったとしても、姜芽様が勇気のある方なのは変わりません。でなければ、あの時私を助けようなどと思わなかったはずですから」

それは確かにそうだ。

とすると、俺は深層的に勇気があるのだろうか。


「ひとまず、話に出てきた洞窟へ向かいましょう」


「だな」

そして、洞窟へ向かう。


村の東には草原が広がっていた。

静かに顔を撫でる風が心地よい。


「いい風だな」


「はい…」

と、キョウラは突然警戒し始めた。


「どうした?」


「姜芽様、構えて下さい。賊が近くに!」


「え…!?」

なんでわかるんだ。

わけもわからないまま、とりあえず斧を出す。


「来ました…!」

キョウラの見る方の小高い丘の上に、三人の盗賊が現れた。

そいつらはこちらに気づくと、何か喚きながら向かってきた。


さっそく初戦になりそうだ。

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