第41話 ネタバレ

 ベクーは一呼吸置くと、憂いのある顔で静かに語り始めた。


「随分と昔、魔が人間を支配していました。それはもう酷い扱いで……」

「知ってますよ。昔、シロシロが聞かせてくれました」

「ではそこは飛ばして、時空の話を……」

「知ってます、ベクーラガルルから聞きました」


 ベクーは「あ……」と呟くと、俯いて口を閉じる。

 さっきから妙にオドオドしてるな、何かイライラしてきた。


「アナタが何者かは知りませんけどね。それで、まだ話したいことはありますか?」

「ええっと……まだ伝えておかないといけないことはあるのですが……要は、騎士さまをどうにかしたくて」

「今この世界がどうなってるか分かってます? 戦争でもう無茶苦茶なんですよ、魔法使いだったら先にそれを止めようとしたと思います」

「は……はい。そうですよね、すみません」


 む……謝られても困るんだが。

 騎士ってプレイキャラ、つまり鎧のことか。

 どうにかするってどういうことだ?

 そもそも死んですぐ生き返るようなヤツ、止めようがないだろう。


「……どうして騎士なんですか?」

「えっ」

「アナタの言ってたことですよ」

「……少し話が長くなりますが。この世界に均衡をもたらした後、神様から魂を時空ごと八つ裂きに。文字通り八つに分けられました」


 またゲームにない設定か……。

 んー、でも神様か。

 開発者? とかその辺だろうか。


「それで、その1人がアナタの知ってる魔法使い、ベクーラガルルです。彼女は……他の私が振り撒いた呪いに対処してくれました」

「ベクーって随分な存在なんですね」

「えへへ……」


 何照れてるんだ。


 ベクーは少し自信を取り戻したかの様子で、さっきより元気に話し出す。


「騎士は神から宣告を受け、今は私の魂を回収しているようなのです」

「回収が終わるとどうなるんですか?」

「まず時間が13年ほど巻き戻り、混沌時空のように、みんなが強い呪いで縛られて……自由に行動できなくなります。例えば、鍛冶屋の人はずっとそこから動けずに暮らします。そして、5年以内に集め終わらなければこの世界に寿命が来てしまい……世界は消滅します」


 なんかカレー味のう……いや、この例えはよくないな。

 なんとなくだけど前者の場合は、シロシロだけは自由に暮らしてそうな気がする。

 本当になんとなくだけど。

 

「止めるべきは神様なんじゃ?」

「いいえ、騎士さまです。彼が世界に寿命をもたらしている張本人です。彼の購買欲を引き出したり、彼をギリギリのところへ追い詰めたりするとなんと……世界の寿命が伸びるのです」


 なんとなく察しがついた。

 いや俺、どっちかっていうとプレイヤー側なんですけどね。


 鎧が寿命をもたらしているというよりは延命をできる立場なんだろうな。


 なんとかするってのは、騎士を楽しませるってことに近そうだ……。


「ベクーが集めきった場合は違うんです?」

「そうですね。もし私に魔法が使えるようになったら、時間を巻き戻すことはできなくても……世界をある程度再構築することができます。騎士は既に私の魂を3つ集めているので、残りの5つを集めたり隠したりで回収の邪魔をした後、或いはしながら。世界を再構築して神様のよりも騎士にとって魅力的な宣告を与えましょう。というのが私の旅の目的です……コヤマさん」

「はいはい、先に戦争止めましょう」


 何か本名呼ばれた気がしたけど気のせいだろう。


 ベクーは俺の言葉に、首を横に振った。


「そんな時間ありません。急がないと騎士が先に魂を集め切ってしまいます、彼は私の魂を持っている影響で魔法を使えて、私は魔法を使えない状態ですので不利です。早く別時空への入口へ向かいましょう。この時空と倉庫と死者の時空の魂はもう取られているので……混沌時空にしましょう」


 何か……邪魔されてるような気になる。

 でも騎士が持っていたあの本は、ベクーラガルルの魂を回収するための道具なのだろう。

 話を信じた方がいいのかも知れない。


「……この世界で魔法使いと呼ばれたベクーラガルルのことは、助けられる? なんか、いなかったことになってるみたいなんだけど」

「元は私なのですが、まあ……憑代があれば問題ないかと。ただ、他の人たちにとってはいなかったことになっているままでしょうね」

「どうして?」

「さあ……。一部の方々はそうなるんです、死ぬと周りから忘れ去られてしまう」


 でもなんだか信用しづらい。

 

 にしてもガラが喋らないな。

 ガラの方を見ると、ぼんやりとした目で口をポカンと開けたまま、ベクーの方を眺めていた。


「ガラ、さっきの話分かった? この人を手伝うのが、魔法使いを助けることにもなるらしいよ」

「どゆこと? シロシロ様は知ってるの?」


 ベクーがコホンと咳払いする。


「騎士の出現とともに、先に話してあります」


 ああ、だからシロシロは鎧にだけ容赦なく殺しにかかってたのか……。

 べクーのこと、ちょっとは信頼できる気がしてきたものの変な気分だ。


 この世界はゲームの中だと、そう遠回しに言われてるような。


 いや、実際それっぽいとこはいくつもあるが、人のことまでその一部だと思わせられるようで。

 でもべクーは人を大事に思ってる感じだし。

 んん……まあ、とりあえず手伝うか。


「とにかく、扉の元へ向かいましょう。混沌の時空はネギトロサンド村にあります」


 混沌の時空と聞いて何となく察してたけど……これは、こないだ通り過ぎた都市のことだ。

 何となく足が重い。

 雨降ってるし、天候次第ではまた1日野営を挟まなくてはならないかも知れない。

 ベクーと何を話したらいいのやら。

 その上、村人にまた来た理由を聞かれたらどう事情を説明しよう……。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る