012 信頼関係を築くには
俺が退学になったと聞き、すぐに学院へと乗り込んだらしい。
そこで、退学になった経緯を聞いたのだが、珍しく怒りを露わにし、学院側を無能だと罵ったそうだ。
召喚陣が描けるのは、素質がある証拠。それなのに召喚が成功しないのは、具体的なイメージが固まっておらず、まだその時ではないからだと力説した。
学院の指導力不足を棚に上げて、その責を生徒に負わせるとはどういうことだと糾弾する姿は、それはもう、
その結果、学院側は非を認め、俺の退学を取り消し、見習い召喚術士の資格も復活させた。
とはいえ、そのまま時が経てば再び退学となる。なので、フェルミンさんの弟子ということにして、その期間は休学中にするという無茶まで認めさせた。
「だからもう、ずっと前からハルキは、マスターの弟子ってわけ。それに、マスターは何も言わないけど、巡回の仕事を真面目にやってたのだって、アンタを探すためだと思うわ」
それで二年間も探し回っていたというのなら、頭が下がる。
まさか、俺のためにそこまでしてくれていたとは思わなかった。
「でも、再会した時、すごく驚いてたし。それに、なんだか態度も素っ気ないような……」
「やっと会えたって舞い上がっちゃったのよ。可愛いわよね」
「えっ? フェルミンさんが?」
「そうそう。今だって、どう接していいのか分からないから、よそ見をしてるけど、ずっとこっちの会話を聞いてるわよ」
「そうなんだ。意外だな……」
「あっ、でも勘違いしないでね。人材発掘もお仕事だから、他にも何人か学院に推薦してるし、ちゃんとみんなのことも気に掛けてるわよ」
「もしかして、フェルミンさんって、すごく優しい?」
「そりゃもう。アンタのことも、責任を感じて……」
かなり声量を落としていたのだが「何か言った?」と、フェルミンさんに睨まれてしまった。
すごく適当で、いい加減な人だと思っていたけど、天邪鬼とでも言えばいいのか、素直に感情を出せずに、ついあのような態度になってしまうのだろう。
「……コホン。ただでさえ召喚術士の成り手が少ないっていうのに、せっかく見つけた原石をぞんざいに扱われたのが気に食わなかったのでしょうけど、それだけハルキにも期待してるのよ」
正直なところ、今までフェルミンさんのことを、家を出る切っ掛けを作ってくれた恩人ぐらいにしか思っていなかった。
すごい召喚術士だとは聞いていたし、実際に見た戦う姿も、憧れを抱いてしまったほど格好良かった。だけど、話せば話すほど適当というか、はぐらかされている感じがして、変な人だという印象しかなかった。
チラリとメイプルの様子を見る。
警戒心の強いメイプルが何も言ってこないのは、特に不審に思うような事がないからだろう。これなら信じてもいい気がする。
それに、これから召喚術の師と仰ぐ相手なら、打ち明けないわけにはいかないだろう。判断が難しいが、信頼関係を築くには大切なことだ。
「ごめん、メイプル。ちょっとサンディーを呼んできてもらっていい?」
「えっと……、急ぎでしょうか?」
「うん、できれば今すぐに」
「分かりました。……もうすぐ来ますよ」
どういう意味だ? ……と思ったが、メイプルの言った通り、それほど待つことなくサンディーが走ってきた。しかも、かなり慌てた様子で。
「お兄ちゃん、どうしたの? メイプルが……?」
来客がいることに気付いて動きを止めると、服や髪を整えてから、改めて挨拶をやり直す。
「お待たせ、お兄ちゃん。私に何の用?」
たいして変わっていないが、改まったつもりなのだろう。
サンディーにも、恩人の召喚術士だと、フェルミンさんのことを紹介する。
そして……
「フェルミンさん、騙すつもりはなかったんですけど、ちゃんと紹介しますね。この子が下の妹ってことになってますけど、俺が初めて召喚したメイプルです」
動きを止め、驚きの表情でメイプルを見つめるフェルミンさんとは対照的に、全く信じる気配がなく「なに、冗談言ってるのよ」と笑い出す
まあ、そりゃ簡単には信じてもらえないだろうなと思いつつも、構わず続ける。
「それで、こっちの子が、上の妹ってことになってますけど、俺が二番目に召喚したサンディーです」
なんというか、笑い転げる
真っ青な顔をして「アンタまさか……」なんて詰め寄られたら、それこそ不安しかなかっただろう。
フェルミンさんにも深刻そうな様子はない。驚いたようだが、興味津々といった感じで……それこそ目を輝かせて近付いてくる。
普段着のスカートをめくられ、可愛い悲鳴を上げるサンディーに、両手を合わせて我慢するようにとお願いする。
顔や髪の毛、指や爪に至るまで確認したフェルミンさんの好奇心は、続いてメイプルのほうへと向かった。
こちらは作業着ズボンだったが、中を覗き込んだり、あっちこっち触ったりと容赦がない。
何を確かめているのかわからなかったが、涙目になって助けを求めるメイプルに、俺は我慢してくれとお願いすることしかできなかった。
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