水虎討伐
寮へ戻った三人を、お
「あっ、お榛さん! あの、
「なんとか討伐……いえ、
お
「それでは、これでもうあの勿怪が現われることはないのです?」
「ええ、安心してください」
「もう、勿怪は現われません。が……」
板塀は破られ、建物にも見過ごせないほどの傷がついている。
「寮の建物が壊れたことは構わないのです。明日にでも大工さんを呼んでもらうことにします。ですからどうかお気になさらず」
お三智は三人に向けて頭を下げた。
「此度は、まことにありがとうございました」
「い、いえ……こちらこそ、無様なところ見せてしまいまして」
「そんなことはないのです。無様でも狙いを果たせればそれでよしなのだと、父上も常々申しているのです」
「
「はい。皆さま、夜明まではまだ間があります。どうぞ、お休みになってください」
お三智がにっこりと微笑んだのを受けて、一気に疲れの出た三人は、夜明まで寮で休ませてもらうことにした。
翌朝、三人は手代の
「これはこれは
「無事、祓えました。もうお嬢様が苦しめられることはございません」
清司郎の言葉に、久助は心底安堵した様子で、すぐに奥へと通された。
昨日の座敷に通された三人は、そこで再び徳右衛門と向き合った。
「皆さん、お待ちしておりました。戻ってこられたということは、勿怪祓いは無事に終わったということですね?」
「ええ、なんとかなりました……」
清司郎が昨夜の一部始終を話すと、徳右衛門は驚いたような顔で聞いていた。話が終わると「そうですか」と一言だけ漏らす。
「あの、大変言いにくいのですが……」
「寮の方でしたら、ご心配めさるな。すぐに大工を手配します。それから、約束の祓い料もお支払いいたしましょう」
徳右衛門は久助に何事か耳打ちすると、手元の文庫を開き、中から
「ありがたく、頂戴いたします」
「またなにかあったらよろしくお願いしますよ」
「その時はまたお頼みください」
簡単にあいさつを交わして帰ろうと立ち上がる清司郎。
「そうだ、この
「そこまでしていただくわけには……」
「いいのですよ。大事な一人娘を救っていただいたのですから、そのくらいのことはさせてください。腕によりをかけさせていただきます」
言い終わるがはやいか、徳右衛門は立ち上がり、奥の方へ駆けて行ってしまった。
「なんて早い人なんだ……」
谷川が呟いた。
「まあ、帰っちゃうのも申し訳ないし、ここはご馳走になるしかないんじゃない?」
仕方なさそうに言うお榛だが、その顔には期待の色が浮かんでいる。
「それも、そうだな。せっかくの好意を無下にするわけにもいかないし……」
清司郎はもう一度座りながら、「そう言えば寮で休ませてもらう時も、同じようなことを言ったかな」と考えていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます