第23話

 先へ進む紅音は周辺の違和感に気づく。


 足を止めある場所に右手の人差し指を向けると爪をナイフ状に伸ばして発射する。


 爪弾は途中で弾けて散弾のように指し示した周辺にばら撒かれ、それから逃れるように痩せた長身の男が飛び出してくる。


 泉田小班と交戦した幻術使い。


 彼等は倒された炎獣から増援が来た事をさとり、彼を足止めに残して先を急いだ。


「いやらしい攻撃だな」


「お褒めにあずかり恐縮です」


 と、心にも無い言葉で返す紅音。


 だがそんな事よりもこの幻術使いの男にとって準備万端で仕掛けた自慢の呪因「幻影蜃気牢」があっさり見破られたショックの方が大きかった。


 例の閃光を使うにしても、まともにいっては見切られるのがオチだ。


 見破られるのを覚悟のうえで幻術を使い、揺さぶりをかける。


 本体を消し、代わりに偽の自分をあちこちに出現させる。


 が、先程と同じように本体のいる場所に爪の散弾が撃ち込まれる。


 自分に照準を定める紅音に向けて光二のまぼろしを出現させ攻撃を躊躇ちゅうちょさせようとするが容赦なく5本指分の散弾を撃ち込んできた。


 その攻撃で、足や肩をやられた幻術使いは悪あがきの閃光を放つ。


 しかしそれを紅音はあっさりと右手で受けてしまい万事休すとなった。


「なんで……、何で俺の呪因が全く通じない?!」


 叫ぶ男に対し、


「貴方が使う呪因は炎の熱と光を利用した幻術ですよね。視覚から精神攻撃により他の感覚に干渉する「幻影蜃気牢」とより精神を支配する「「幻影陽炎げんえいかげろう」。どちらも私には効果ありませんよ。それに熱エネルギーを収束して放つ熱線系の呪因、と大体想定できますから」


 陽炎は結局出習得できなかった男にとって馬鹿にされているように感じられた。


「くそぅ!」


 そう言って閃光を撃ちまくろうとした瞬間、気がつけば紅音の拳が深く自分の腹部にめり込んでいた。


「無駄です。正面に撃つだけならいくらでも防ぐ術がありますから。熱線系の弱点は直線にしか飛ばない事です。反射物などと併用するまでが基本ですよ」


 完全に圧倒された事により悔しいという気持ちは消え、格上に挑む羽目になった不運を呪いながら男は意識を手放した。




 剣を持つ男。


 彼の持つ剣は呪因具であり名を「走馬刀そうまとう」と言い死体の血から知りたい情報を引き出す事ができる。


「馬鹿共が。可能なら弟の方も確保すると言ったぞ!」


 剣を持つ男は怒りを抑えるような口調で言う。


「思った以上にてこずっちまったからなぁ。あんたが手伝ってくれればよかったんだ」


 槍をかついだ男が言う。


「俺が受けた依頼は外練の回収と封印の解呪方を調べる事だ。それ以外なら追加料金を取るぞ」


 剣を持つ男が言い返す。


「援軍が来た以上、時間をかけなかったのは正解だろ。最悪でも外練が回収できればいい」


 光一の遺体を背負った炎獣使いが口をはさむ。


 ふうっ、とため息をつくと剣を持つ男は封印について説明する。


「この先に3本の霊木が三角形をえがくように植えられていて、その中心に外練が封じられた器物が埋まっている」


「なんだ、そんなのすぐ見つかるじゃないか」


 槍使いが軽口をたたくが剣を持つ男は鼻で笑う。


「なら見つけてみろ」


 そんなやり取りをする一同の視界に数多の樹木が入ってくる。




 霊木を見極める方法の一つは樹木の種類を知ること。


 霊木とは特別な樹木であり特徴を知っていれば見極められる。


 もう一つ、特別な力を有しているのだが気配でそれを感知することは非常に難しく、ここにいる3人に不可能だった。


 離れて感知するのは難しいが触れて力の流れを感じる事ができれば見極められる。


 時間をかければ霊木の判別は可能なのだが……。


 そして、霊木も普通の木々のように種を落としてその数を増やす。


 封印されてから数百年と経っている事からその数は相当なものになっている。


「おいおい、時間が無いんだぞ!」


「そのためにこいつを連れてきたんだ」


 炎獣使いが背負う光一の遺体を指し示す。


 手に持つ剣で光一を刺すと遺体が青い炎のようなモノに包まれ、ゆっくりと歩き出す。


「さあ、お前の記憶をたどれ」


 光一の亡骸がある地点で止まる。


「ここだな」


 剣を持った男が静かに呟く。




「封印の解呪方をしめせ」


 そう言って走馬刀に付着した血液が青く燃えはじめるがすぐに消えてしまった。


「やはり血が足りなくなったな」


「仕方がない。これで撤収だな」


 剣を持った男に炎獣使いが提案する。


「最低限の仕事はできたしな」


 そう言って槍使いの男は地面に置かれた木箱に視線をやる。


「本当に必要最低限だがな」


 厭味ったらしい言い方で返すと、剣を持つ男は箱を抱える。


「撤収だな。奴にも伝えろ。最悪バラバラに脱出することになる」


 その場を離れる一同。


 光一の遺体をそこに放置したままで。


「おかしい。あいつでないぞ」


 取り出した通信機を片手に炎獣使いが口にした言葉。


 それを聞いた剣を持つ男が指示を出す。


「この場で解散してアジトで合流だ。交戦は避けろ」


 言い終わった刹那、何かが彼らのいる場所に振り下ろされる。


 3人は散開しそれを回避すると戦闘態勢をとる。


 3人のいた場所はえぐれ、錫杖を持った少女がゆっくりと立ち上がった。


「ちっ、他にもいるぞ。戦おうなどと思うなよ」


 そう言うと剣を持った男は大小様々なサイズの小石をばら撒くと、それは小石同様、様々な大きさの石の人型に変化する。


『ゴーレムだな。石製でこの数は厄介だな。魔傀儡、ここはいいからあの男を追え。多分あいつがこの集団のリーダー格だ』


「大丈夫ですか?」


『負けることはないが取り逃がす可能性はある。だからあの男だ』


 わかりましたと言い、紅音はその場を離れる。








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