蒼き呪因と真紅の傀儡姫
@suzukichi444
第1話
季節は秋、10月
某県下沢市、下沢高校、2年A組にて
「じゃあ、やっぱり3年の深崎先輩ってお前の姉ちゃんだったのか!」
「あぁ……、うん……、まぁ……」
歯切れの悪い返事を返したのは最近転校してきた
彼に答え辛い質問を投げかけたのは
「でもぜんぜん似てないよなぁ。お姉さん、身長170cmぐらいあるだろ」
クラスメイトのひとり、
弟である蒼馬の身長は155cmぐらい。
「お姉さんに色々と持っていかれたのか」
と勝手に納得する聡。
「ははは……、よく言われるよ……」
必死に愛想笑いを絞り出す蒼馬。
「まぁ、俺も兄ちゃんに良いとこ持っていかれちゃったからなぁ。」
勇司がフォローを入れる。
彼のこういうところに居心地の良さを感じる蒼馬。
「そういえば
「ああ、半年ぐらい前だっけ?1学期が始まった頃だよなぁ。俺も記憶にないなぁ」
勇司の報告を聡が補足する。
「本当にここなのか?下沢って付く高校は他にもあるからさあ。下沢台とか下沢北とか」
「う……、う〜ん……。ちょっと自信無いかも……。一緒に遊んだりした事はあったけどすごく仲が良いとかじゃ無かったから……」
聡の質問に自信無く応える蒼馬。
御堂要とは蒼馬の前の学校でのクラスメイトで半年前に下沢高校に転校しており、偶然同じ高校に転校してきた蒼馬が彼を探している。という設定だ……。
放課後
校門に立つ1人の少女。
身長は170cmほどあり、黒髪を腰のあたりまで伸ばしており、整った顔立ちでスタイルも良い。
着ている紺色のブレザーからこの学校の生徒であることがわかる。
美人ではあるのだが、どこか近寄りがたい雰囲気のある少女。
その少女に駆け寄る小柄な少年。
「ごめん、姉さん……」
「……。遅かったわね」
「ちょっと友達と話しこんじゃって……」
「そう……」
駆け寄ってきた小柄な少年は深崎蒼馬、彼を待っていた少女は姉の
「帰るわよ」
そう言って帰路につくよう促す紅音。
黙って早足で姉を追いかける蒼馬。
蒼馬と紅音の住むマンションは学校から徒歩で15分ほどの所にある。
10分ほど歩いた頃、紅音が蒼馬に密着してくる。
「姉さん!?」
驚いて紅音の顔を見上げる蒼馬に向かって紅音はピンと立てた人差し指を自分の唇にあててみせる。
静かにするようにというゼスチャーだ。
「いつも尾行している人だと思うのですが、今日はかなり距離を詰めてきています。もしかしたら仕掛けてくるかもしれません」
そう言うと紅音は左手で蒼馬の右腕をつかむと微笑むように蒼馬に言う。
「大丈夫です。私にまかせてください」
そう言い終わると同時に蒼馬はもの凄い力で引っ張られる。
「うわぁ!?」
と、思わず声を上げる蒼馬。
いつの間にか先ほどまで蒼馬と蒼馬がいた場所の間に紅音が立ち、たった今離れた場所に数本の黒いナイフのような物が刺さっていた。
黒いナイフから黒いモヤのようなモノが発生し、それは人型になり各々、自身を生み出したナイフを手に取る。
「マスター、下がっていてください!」
そう言って立ちはだかる紅音に相対するのは5本のナイフが生み出した5つの黒い人型。
1対5
数の上では不利なはずなのだが、紅音は一瞬で人型との距離を詰め、3体を蹴り飛ばす。
蹴り飛ばされた3体は一度モヤ状になって飛散するが、再び人型になりナイフを拾って襲いかかってくる。
その前に、蹴り飛ばされなかった2体がナイフを突き刺しにくるが、紅音は余裕で回避するとその凶器をつかみ、握り潰してしまう。
ナイフを失った2体の人型は消滅し、それを目視した紅音は、
「こちらが本体でしたか」
と冷静に言う。
残る3体が向かってくると紅音は集団の右側に大きく避け、近くにいる1体のナイフを破壊する。
紅音が黒い人型を圧倒しているのはあきらかだった。
だがもしこれが蒼馬1人だった場合、勝負にすらならず一方的にやられていただろう。
かつて深崎蒼馬が住んでいた人口10万人ほどの町で今は存在していない。
と、言うと
今年の1月、彼の通っていた刃砂間高校に、ある1人の少年が転校してきた。
名を
彼はすぐにクラスに打ち解け、人気者になった。
しかし彼の目的はこの刃砂間市の住人の命であり、今思えば何か得体のしれない力が人々をひきつけていたのかもしれない。
御堂の使った『呪因』という力。
『呪』とは思いのこもったエネルギーを意味し、『因』とは因果の因。
超常を引き起こす原因、手段、方法を意味し、呪因とは魔導や妖術などの総称である。
この呪因の技術によって作られた『パンドラの箱』
対価さえ払えばどんな願い事もかなえられるという呪因具であり、その対価として刃砂間市の人々は命を奪われたのだ。
本来、自分以外の命を対価として差し出す行為は禁忌とされており、黒の儀式と呼ばれる。
目の前で友人知人が塵になって消えていくのを目撃した当時の蒼馬は、自分は二度と立ち直れないと思うほどに絶望していた。
そんな彼の前に現れた黒ずくめの男。
黒の帽子に黒のコート。黒いシャツに黒のネクタイをしめ、黒いズボンに黒の革靴。サングラスをかけた黒川凍雅はパンドラの箱を破壊するならば協力すると言う。
「ここはかつて私達の一門が拠点にしていた場所です」
黒川はそう説明すると大きな館の中に案内する。
気のせいか、外から見るより中は広い気がする。
剣や刀といった武器や防具らしき物、書物や巻物が無造作に置かれた中を進むとある扉の前に出る。
「ここです」
そう言って扉を開けると今までとは異なる光景がそこにはあった。
その部屋には人の形をした器物が並んでいた。
「人形?」
「魔クグツと言います」
蒼馬がもらした言葉に黒川が応える。
「呪因によって動く自動人形です。自分で考えて行動する事ができます。呪因に関しても戦闘に関しても詳しい訳ではない君の呪因具に適していると思います」
そう説明された蒼馬が何かに呼ばれたように部屋の片隅に目を向ける。
そこには真紅の髪を腰まで伸ばした美しい女性型の魔クグツが椅子に座った状態で置かれていた。
「彼女ですか……」
黒川は少し戸惑った様子だ。
「確かに彼女はここにある魔クグツの中では1番性能が高いかもしれませんが……」
少し迷った後、黒川は再び口を開く。
「順番を間違えてしまいましたね。まず、魔クグツとの契約について説明します」
そう言うと部屋の片隅の魔クグツの方に向かって歩きだす。
「難しい話ではありません。魔クグツとの契約にはご自身の魂の一部を譲渡する必要があります」
「魂の譲渡?」
と聞きかえす蒼馬に対して説明を続ける黒川。
「魂を分け与えるという事は、自分の一部を分け与えるという事です。たとえばあなたが1%の魂を分け与えたとします。するとあなたの全ての能力は今後どれほど鍛えたとしても本来の99%までしか伸びないという事になるのです」
片隅の魔クグツにたどり着いた黒川は彼女の真紅の髪を見つめながら言う。
「普通の魔クグツとの契約では1%から数%の魂ですみます。ですが彼女は特別な事情がありまして、契約のときにどれほどの魂が取られるのか全くの未知なのです」
黒川の説明を聞き一旦は黙る蒼馬。
しかし彼女に何かを感じていた彼は黒川にある質問をする。
「黒川さん、彼女がここにある魔クグツの中では1番の性能だと言いましたよね?彼女以外であの御堂要に勝てる魔クグツがあるんですか?」
今度は黒川が沈黙する。
御堂本人もさることながら、仲間や協力者がいるであろう事を考えると、このいわくつきの魔クグツでも勝てるという保証は無かった。
そして
「彼女にします」
リスクをおかして手に入れた魔クグツ紅音はそれに見合った戦闘能力を持ち、残りの黒い人型もあっという間に片付けてしまった。
紅音は自分達が来た道をにらむと、
「逃げたようです」
と言い蒼馬のもとに戻る。
2人の襲撃地点から離れた場所で影に隠れてスマートフォンに話しかける男が1人。
「ああ、あっという間だ。あっという間に5体ともやられた。弟の方は分からないが姉はかなり強い。もしかしたら呪因管理官ってヤツかも」
『わかった、今日はもういい、戻れ』
スマホからの声に従い、その場を後にする尾形聡。
そのスマホの通話相手の名前には香山 経彦と表示されていた。
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