回帰
高橋淀
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未だほの昏い空に、鳥が飛ぶのを見た。
灰色に濡れる浜に横たわって、波にさらされながら、何もせずそれを見続けた。
ひんやりとした海水は、その冷気が潮とともに鼻腔を抜け、つんと涙を誘った。
だが染み出した涙を拭うこともしなかった。
鳥が、飛んでいるのだ。
あれは俺だと、傲慢にも信じて疑わなかった。今は翼も、手足すらも、もう何もないけれど。
背後から愚かだと笑う懐かしい声がした。
声は俺に、楽しかったかと尋ねた。
欠くした腕がうずいた。最後の感覚が蘇る。
もちろんだ、と大きな声で言った。
また声は俺に、苦しかったかと尋ねた。
最後に地面を踏みしめた記憶が再生される。
すこしだけ、と俺は呟いた。それでも俺はやった。
それじゃあ行こうと、そいつは手を差し伸べてきた。
躊躇わずに手をつかんで立ち上がった。俺の手足は、もう当然のようにそこにあった。
砂を踏みしめ、もう一度水平線を見た。
輝く太陽が、俺の顔を照らした。たまらず手を翳した。
そうして海が、大地が、世界が黄金に焼き尽くされる様を見続けた。
鳥はもういない。
俺たちは並んで、いつものように歩き出した。海へ向かって、その中へ向かって。
怖くはなかった。二人だし、俺たちは元いた場所に帰るだけだ。
水は血のように温かかった。
吐く泡は上へ上へ。そうして体も魂も跡形も無く、二人はこの世界から消えていった。
回帰 高橋淀 @asun0y0z0ra
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