第10話 なかま

案内されたのは低めの大きな机が真ん中にあり、囲うように椅子が6個並んでいるリビングルームのような部屋だった。

「どうぞ、腰をおかけになってください」

少女が言った。

ボクとアオさんは並んで座り、その反対側にハカセが座った。少女は立っていた。

「あ、そうだ」

ハカセが思い出したように呟き少女を見て言う。

「オペ、彼らは今どこに?」

「はい、まだ就寝しているかと」

「え?!まだ寝てるのかい?!全く…昨日言ったじゃないか…お客人が来るから寝坊はダメだよって……」

ブツブツ何か言っている。

「…それじゃ、起こしてきて貰えないかな。“グランデリアの姫が来た”と」

姫………?グランデリア……?

ここに来たのはボクたちだが。

「承知いたしました」

そう言って少女は部屋を出ていった。

「いやぁ本当に申し訳ない。優秀な子たちが揃っているんだけどね、子どもだからか朝はやはり弱いみたいで…。昨日も少し忙しかったんだよ」

ハカセは苦笑しながら言った。

そんなハカセを見てアオさんが答える。

「いや、別に俺らは何も気にしてないから大丈夫だ」

「すまないね、ありがとう。……さあ、ここまで少し長かったろうから休憩がてらお茶でもしようか」

明るい笑顔とともにハカセがそう言った時だった。

バタバタバタ!!

扉の方から何かが走ってくるような音が聞こえた。いや、階段を駆け降りている音だ。

バンッと勢いよくドアが開かれた。

「ちょっとハカセ!姫様なんてどういうことよ?!??!」

「僕も聞いてないよ!お客様がそんなすごい人だなんて!!」

……………あれ、見たことある気がする。

「そりゃそうだよ。私は誰が来るかなんて伝えてないからね」

「にしても酷いわ!全くもう、恥かいちゃったじゃない…」

「すみません、こんな風に取り乱してしまって…」

あの時見たキャスケットは被ってないけど、ふわふわの白い耳と、額には小さな角がある少年がボクらを見て言った。

「私からもごめんなさい……」

横にいたマゼンタの髪色の少女もぺこりと頭を下げる。

「…………………………………………」

急に謝られてもどうすればいいのか分からず沈黙が続いてしまう。

「「…………………ん?」」

少年と少女はその沈黙にさすがに違和感を感じたのか顔を上げる。

そしてボクらをじっと見る。

「………ハハ…、どうも……」

沈黙と視線に耐えられずに口を開いた。

「あぁぁぁっっ!!!!この子!昨日見た子じゃない!」

突然少女が大きな声でそう言う。

「…あ!確かに!昨日見た子にそっくりだ!!」

少年も続いて驚く。

「ハッ…!ハカセ、もしかしてこの子…グランデリアの姫様だったの??!!」

少女がハカセを見て言う。

「そんなわけないだろ。第一、私はグランデリアの者と何も関わりないからね」

さっきの言葉は冗談でした、とでも言わんばかりにハカセは舌を出している。

「はあ?!!?!何それ!納得いかないんだけど!!」

「第一!昨日客人が来るから早く起きておいてくれと言ったじゃないか」

ハカセはムスッとそっぽを向く。

「昨日大変だったんだもん!起きれないのはしょうがないじゃない!」

わ、もしかして喧嘩してる??!

「ちょっとちょっと、この人たちがグランデリアの人じゃなくてもお客さんなんだから喧嘩は失礼でしょ」

ボクが止めようとする前に少年がそう言う。

「その通りです。お二方、落ち着いてください」

ツインテールの少女も2人を制すように言った。

何だこの状況…。ボクとアオさんはそう思ってこのやり取りを黙って見ていた。

「それじゃ、気を取り直して…」

ハカセはボクとアオさんの前に手をバッと出して、

「今日から仲間になるナノちゃんとアオだ!!」

と言った。

「...」

え何この沈黙。

するとマゼンタ髪の少女が顔を俯かせる。体が少し震えている。もしかして泣いてる…?!!!

「…そんな急に………」

その少女が言う。

あ…もしかしてボクが嫌…なのかな。


「そんな幸せなことがあっていいの???!!!?」


…ん?

「うわぁっ!!」

その少女は急にボクに飛びついてきた。

そして手をギュッと握られる。

「ロミーナンスよ!確かナノちゃんだったわよね!よろしく!!」

急な態度の変わり様にちょっと引き気味になってしまう。

ええ…??

「こら、ロミーナンス。急に飛びつくなんてびっくりしちゃうだろう。あ、改めて初めまして。コトニーです。これからよろしくね」

少年は落ち着いた様子でニコッと笑ってそう言った。

「わ!やっぱりもふもふなのね!いいなぁ」

気がつけばロミーナンスという少女に耳を触られている。

「ハハ…ごめんね、ロミーナンスはアーニマ族をあんまり見た事がなくてさ。ボクもアーニマ族だけどさ、ほら、君みたいな種類では無いから」

コトニーという少年は見た感じ植物食性タイプの見た目をしていた。確かにボクとは違う。

「ねね、呼び捨てでもいい?私ちゃん付けして呼ぶのあんまり好きじゃなくて。私のこともロミーナンスでいいから!」

「う、うん……」

「やったあ!」

ギュッと抱きつかれた。こういう時、どういう対応をしたらいいのか分からなくて固まってしまう。

「フフ、随分と仲がいいみたいだね。ではこの建物の案内がてら遊んできたらどうかな?」

ハカセが提案する。

「いいわね、それ!よし、ナノ、行くわよ!しっぽも触らせてね!!」

「ええぇぇえ!?!!?」

「あちょっと待ってよ〜!」

ロミーナンスにぐいっと手を引っ張られ、コトニーもその後についてくる。

「アオさーーーん!!!」

名前を呼んだがどうしようもなく引っ張られて部屋から出てしまった。

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「おいおい、ナノは大丈夫なのか?!」

「アオは心配症だなぁ。大丈夫だよ!あの子たち、他人にめちゃくちゃ興味持ってるし」

「俺が心配してるのはそこじゃない!」

「ハハハ!まあもしものことがあったら怖いから、オペ、あの子たちを見ていてもらえるかい?」

「承知いたしました」

オペと呼ばれたツインテールの少女もナノたちの後を追っていった。


そしてこのリビングルームには俺とハカセの二人しかいなくなった。


「…それじゃ、お茶会でも始めようか。私はアオと、いや、先̀輩̀と二人きりでお話がしたかったんだよね」


ハカセがニヤリと不気味に笑った。

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