アウトサイダーウィザード

@rinoe0714

第1話 パイプライン

 ある日、AIがさらに発達したその世界では、AI、つまり人工知能によって新たな世紀的大発見がされた。


 それが、魔法オカルトである。


 これまで、科学でこの世は説明が可能であり、魔法や呪術、錬金術などは決して起こり得ない。そのように言われていたし、信じていた。多くの人間に教育が行き渡り、今後もより多くの科学技術が発展していくだろう、そのように思われていた。


 だが、そんな科学の代表とも呼べる存在。インターネットや、事前にデータとして取り組んでいる情報から思考、計算し、まるで人間のように答えを導くもの。人工知能。


 そんな人工知能の中でも、アメリカ軍の研究機関によって生み出された88=WEという、まさに人類の結晶とも呼べる人工知能が造られた。そんな88=WEが最初に計算し、導き出したことは―


 『魔術や呪術、霊術といったオカルトは、存在する』


 それにより、世界は一変した。


 魔法学というものが誕生し、その魔法学があらゆる分野によって使われえるようになった。


 通信技術、建築技術、医療技術など多岐にも渡る。そして、軍事技術にも……。


 魔法のの中には、結界法というものがある。それは、言わばバリアのようなものだ。その最高硬度はまさに、核爆弾の威力さえも防御してしまうほどに。


 そして、今度は核の放射物質を簡単に処理してしまう技術も生まれた。本来であれば、数万年かけて自然に放射線が弱まっていく方法しか無かった。だが、魔法によって一日もかからずに洗浄し、完璧に放射量をゼロにする革命的なものが考案された。


 されてしまったのだ。


 ここにきて、核抑止が完璧に消滅し、アメリカ、中国、ロシアの三つの大国を中心に、第三次世界大戦へと発展した。


 そんな第三次世界大戦が終戦した、三十年後の話である。



 そこは、ギリシャの隣国 トルコ。中東とヨーロッパに挟まっているような場所だ。そういう点では中東とヨーロッパをつなぐ重要な貿易地点と言っても過言ではない。


 しかし、陸路よりも海路の方がコストのかからないうえに、すぐ近くにスエズ運河がある。ゆえに、トルコは重要地点とはいえるが、唯一ではないということであった。


 だが、近年はより一層、その重要性が高まっている。


 それは、石油のパイプラインだ。


 第三次世界大戦以降、ヨーロッパ圏内の国々は元ロシア……現代においてソビエト第二連邦から石油の供給は完全にストップされてしまっている。やはり、ヨーロッパはアメリカと共にソ連と戦った国々でもあるため、ソ連は敵であるヨーロッパ諸国に石油を買わせることはしなかったのであろう。


 そんなヨーロッパの今の石油貿易相手は中東がメインだ。そして、そのパイプラインに中継地点が、ヨーロッパと中東の間、トルコというわけだ。


 そんなトルコは、現在夜中の三時。そこで、事が起きようとしていた。






 複数の兵士……暗闇と同化できるように、黒い服に、黒の目出し帽をかぶって、走っているものたちがいた。武装は最低限で、拳銃のみとなっていた。


 今日は満月の日。しかし、曇っているようで、まったく月明りは存在しなかった。


 「よし、目標地点までもう少しだ。それぞれ、ブツは持ってるな?」


 先頭を走るリーダーが、部下に言う。すると、全員が懐ふところから何かを取り出す。


 それは、接着型の爆弾だ。


 「よし、これでヨーロッパ共は石油の供給が停止し、多くの奴らが冬も越せず、厳しい状況におかれる。そして、来年の一月には、我が祖国がヨーロッパを支配しているだろう!」


 彼らは、自分たちの任務によって、祖国が繁栄し、世界覇権国家になれるという大きな希望と、幸福感をもっていた。


 しかし、この爆弾は決してタイマー式などではない。接着した後、その場でピンを抜かなければ、爆発はしない。そして、ピンを抜いて一秒以内には爆発するだろう。


 そんなもの、魔法で対応できる速さではない。つまり、彼らは石油パイプラインを破壊するために、今から特攻しに向かうのだ。


 「さぁ、行くぞ!!お前らァ!!!!!!!」


 その叫びと共に、兵士たちはさらに強く、思いっきり走っていく。そこには、決して迷いなどなかった。国ために、死ねるなら本望!!


 しかし、パイプラインを守るために巡回している兵士だっている。


 「お前ら、何者だ!!」


 彼らは、隠密行動していた彼らと違って、しっかりと武装している。拳銃対ライフル。一体、どっちが強いのか。結果は明らかである。


 迷わず来ている兵士に驚き、恐怖を覚えながらも、乱れ撃ちする巡回兵。肩や腕といった急所ではない箇所に着弾して痛みを抑えながらも進む兵士。


 他に足など歩けなくなってしまう箇所に着弾し、倒れるもの。。または、頭に当たり、一発で死にいく者だっていた。


 だが、既に死を覚悟している者たちの考えていることは、その先を行っている。


 無傷で辿り着いた兵士が叫ぶ。


 「わが祖国に栄光あれ!!」


 そういって、パイプラインに設置するはずだった爆弾を、ここで起動させる。


 「なッ、コイツ!!」


 多くの兵士が魔法で身を守ろうとする。


 しかし―


 ドォォォン!という巨大な爆発音と、猛烈な熱風によって、それがどれだけ無駄なことだったのか。理解させられる。そして、自爆すら覚悟しているというその強い意志に、爆発に巻き込まれなかった兵士たちは慄き、どんどん逃げていく。


 「さて、雑魚でもは逃げたな。では、応援を呼ばれる前に、任務を成功させるとしようじゃないか」


 そういって、どんどんパイプへと走っていく兵士たちの前に、何かが現れる。


 「おいおい、待てよ。俺がまだいるんだが……?」


 そこには、死神を彷彿とさせるような、巨大な鎌を持った男が立っていた。年齢は、まだ二十歳も言っていないような、高校生あたりの少年がいた。


 全員が、足を止める。


 たった一人の少年。だが、得体のしれない不気味を感じていた。


 黒い髪に、黒い目。そして、自分たちからすれば、黄色い肌。


 「東洋人か。しかも、珍しい。純粋なニッポン人か」


 「へぇ、すごいな。一目見て、純潔日本人って見抜けるのか」


 「だが、ニッポン人が何の用だ?お前のような負け犬人種に構う時間などない。死にたくなければ、見逃してやるが、取っかかってくるなら、殺すぞ」


 「そうか、お前のような、小さい脳みそじゃあ、選択肢はたったの二つしかないんだな?」


 少年は、ぶんぶんと鎌を回す。その動きは、まるで死の舞踏をあらわしているようだった。それと同時に開ける雲の天井。


 そこから流れる水のように儚く、美しい月明りが少年を照らし、その姿を顕わにする。


 「トルコ兵じゃない……?胸につけたバッヂ…そうか!噂で聞いていたが、実在していたとはなぁ!」


 まるで都市伝説の口裂け女と会ってしまったような、怖くて、しかしながら本当に居たんだという嬉しさの混じった、奇妙な感覚に陥る兵士たちのリーダー。


 「リーダー、どうしたんですか?もしかして、知り合い?」


 「なわけあるか!?あれは、国連に秘密裏に設立された組織だよ。お前らも聞いたことぐらい一度はあるんじゃねぇのか?」


 そう言われて、ハッとする。



 第三次世界大戦では、まったく国連が運用出来ていなかった。


 国連は、平和維持が目的とした作り上げられた組織。


 三つの大国の戦争に、巻き込まれるアジア諸国に、中東、ヨーロッパ。国連はあらゆる点から戦場となった国を支援し続けるが、結果は平和維持なんて出来なかった組織。


 国連軍というのも、加盟国が兵士などを提供してくれていることで、成り立っていた軍隊。国連軍は活躍どころか、まったく人数も集まらず、何も出来ていなかったというのが現状。


 それによって、第三次世界大戦後、国連のみが保有する、真の国連軍を創設するという計画があった。どちらかの国にも加担せず、被害最小で戦争を終わらせるための軍隊。しかし、それは噂程度であり、公表どころか、国連は決してその存在を認めていなかった。



 彼のつけているバッヂが、実在していたという証拠。


 「あれが……国連に派遣された……」


 「噂の軍隊は一人一人が化け物と聞くぞ!」


 後ろの兵士たちに不安が生まれ、ざわざわし始めていた。が、リーダーの、野太く、漢らしい雄たけびによって全員の心が元に戻る。


 「国連軍とはいえ、しょせんはガキ一人。こちらはパイプさえ破壊出来ればそれで良い!さぁ、行くぞ、テメェらァァァァァァァ!!!!!!!!!」


 一人の少年の先へと超えるべき、一斉に兵士たちは爆弾を抱えて駆けだすのであった。


 「良い覚悟してんなァ、でも。それゆえに、残念だな」


 少年もまた、巨大な鎌を構える。


 「ここで全員、想いが粉々に砕かれると考えるとなッ!!!」

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