五円のご縁

トマトも柄

五円のご縁

ある神社にお賽銭を入れている人がいました。

その人はこう呟きました。

「五円を入れたのでどうか何かのご縁がありますように」

その人は帰ろうと神社を背に向けて歩いていきました。

その人はご縁があるようにとは願っていましたが、今まで叶ったことがありませんでした。

ご縁があるようにと毎日神社に寄って、五円を入れて願いを込めます。

毎日毎日繰り返します。

すると、ある日、

「毎日お参りしてますね」

近くにいる巫女さんに話しかけられました。

「ご縁があるようにと願って、毎日お参りしているんですよ」

「願いは叶いましたか?」

「いえ、それはまだなのですよ。 早く叶ったらいいのですけどね」

「きっと神様は見ていますよ」

巫女さんはその人に笑顔で返しました。

その人も笑顔で返します。

そこからいつものように神社で毎日お参りしていきます。

お参りをして数日経ったある日、小さな女の子が近づいて来ます。

「神様にお参りしてるの〜?」

その人は笑顔で、

「そうだよ。 毎日お参りに来てるんだよ」

「いいことあった〜?」

「いや、今はねまだないんだよ。 いいことあればいいのにね」

それを聞くと、女の子は走ってその場から離れ、何かを掴むと急いでその人の所に戻って来ました。

「この葉っぱがね、きっとお兄さんの願いを叶えてくれるよ」

女の子はその人に葉っぱを渡しました。

その人は、

「ありがとう」

と、笑顔で答えて葉っぱを受け取りました。

女の子は葉っぱを渡したらその場を去りました。

少し離れた場所で、

「バイバ〜イ!」

と言って、元気に手を振って帰りました。

その人も手を振って女の子が居なくなるまで見届けました。

その人はそこからも毎日毎日、お参りしていきます。

雨の日も、風の日も、雷の日も毎日毎日、神社に通いました。

そして、再び小さな女の子に会いました。

「あ! お兄さんだ! 願い叶った!?」

女の子はせがむようにして聞いてきます。

「う〜ん。 まだ叶ってないかな」

「いつも何を願っているの?」

女の子が聞きます。

「それはね。 内緒」

その人はそう言いました。

その後もその人は神社に通いました。

何度も何度もお賽銭に五円玉を入れて願いを込めました。

そこから数日した後、女の子がお賽銭の前にちょこんと座っていました。

その人は女の子にこう話しかけました。

「こんにちは」

「こんにちは〜!」

女の子は元気に挨拶をしてくれました。

「今日も一人なの?」

「うん。 いっつも一人なんだ」

「ママはどうしたの?」

「いないの。 だからいつも一人で来てるの」

「そうかぁ、お兄ちゃんも今一人だから一緒にお話しようか」

「うん!」

その人にいっぱい話したいという気持ちがあったのか、女の子は力強く答えました。

そして、いっぱい話をしました。

この神社のこと、その人のこと、周りの木についても話しました。

話が落ち着いた時、女の子は聞きました。

「お願い、叶ったの?」

「ん〜。 叶ったと言ったら叶ったかな」

「ほんと!? どんなお願い、叶ったの!」

「それは秘密」

「ちぇ〜。 教えてくれてもいいのに〜」

「次に来た時に話してあげるよ」

「ほんと!? 約束だよ!」

「うん。 次来た時にね」

そうして、女の子は神社から帰っていきました。

その人は女の子を見送り、お賽銭の前に座っていました。

「願い、叶ったかもしれないな」

その人はそう独り言を言いました。

そこからも毎日のように神社に通います。

巫女さんからは最近楽しいことでもありましたかと聞かれるくらいに笑顔になっていた。

通い続けて、数日が経ち、再び女の子に会いました。

その人は女の子に笑顔で話しかけます。

「今日はどんなお話する?」

「今日は言わないといけないことがあるの」

「どんなことだい?」

「私は神様なの」

「え?」

女の子の話にその人は驚きます。

「私は毎日見ていました。 貴方がお参りしているのを。 貴方は凄いです。 毎日毎日、ご縁があるようにと願ってましたね」

「君は神様で、毎日の私のことを見守ってくれていたんですね」

「このことを言われたら嫌になるだろうなと思い言いませんでした」

「よかった。 ご縁はあったんだな」

「え!?」

その人の答えに女の子は驚きました。

「だって、今話しているのもご縁だよ。 縁がないとは思っていたがこういう縁もある。 そう思っていたんだよ」

「そうだね。 あの葉っぱもご縁があるようにとお渡ししたけれどご利益はあったかしら」

「もちろんあったとも。 あなたに出会うというご縁が」

一つの五円玉で一つのご縁が叶う。 とても良いことだとその人は思い、こう聞きました。

「じゃあ、今日はどんな話をしようか」

「私の話をしようか」

そう言って、お互い楽しく話しました。

ご縁を願っていたその人の願いが叶いました。

誰かと話したいと言う願いが……。

「では何の話から始めようか。 私の話を聞く?」

その人は頷き、女の子は話を始めました。

「私はこの神社ではいつもひとりぼっちだった。 巫女さんは掃除とかいつも綺麗にしてくれるのだが、私が見えないから何も話しかけては貰えなかった。 だから、私もお賽銭に向けて願いを込めたんだ。 話ができる人が欲しいと、そうすると、お兄さんが出て来たんだ。 雨の日も、風の日も、雷の日も欠かさずここに訪れてくれていた。 私は自分で正体を話したいと思った。 どんな人物でどんなご縁に望んでいるのかが気になってな」

女の子は話したいことを全て話し終え、その人は答えました。

「確かにご縁があるようにとは願ったね。 けれど、もう叶ったんだ。 君と話すことで」

「え!?」

「その願いはきっと誰かと話したかったんだろうね。 いっつも一人だったから話し相手が欲しかったんだ。 それで、いつもあのお願いにしていたのさ」

「そうだったのか。 私ならいつでもここにいるからいつでも呼んだら出てくるぞ」

「嬉しいね。 ではまた話し相手になってもらおうかな」

そこからはその人と女の子は色々と話しました。

そうして、二人の心は開いて言った。

次の日、その人は女の子を呼びました。

女の子はひょっこり出て来て、その人に近づきました。

「会社の就職が決まったからこっちに来ることが出来なくなった」

その人は、女の子が引き止めてくれるのを少し期待していた。

だが、

「そうか。 もう来れないのか。 残念だな」

女の子は引き止めようとはしなかった。

「こっちに来れなくなるんだ。 辛くなるとも思うんだ。 だから、連絡を」

「大丈夫よ。 私達はご縁に恵まれているからまた会えるよ」

そう言って、励ましてくれた。 とても優しかった。

そして、私は神社を出た。




あれから、三十年の月日が流れた。

その人は定年退職になり、やることが無かってフラフラと散歩に出ていた。

すると、いつもと変わらない神社がそこにあった。

その人は神社に立ち寄り、ポケットから葉っぱを出した。

「綺麗に置いといてくれたのね」

女の子がやってきたのだ。

三十年前と変わらない姿でいたのだ。

「お話、してもいいかね?」

「もちろん。 これもご縁の効果よ」

その人は笑顔になり、三十年分の思いを話しました。

色んなことを話しました。

仕事のこと、大切な人と出会えたこと、そして色々な出会いがあったことを女の子に話しました。

そして、

「話せてよかった。 本当に良かった。 ありがとう」

「お話、楽しかったよ。 色んなことがあったんだね〜」

この三十年の間、色んなご縁があった。

そこで、その人はご縁があるようにと願ってお賽銭する。

女の子も横で見ている。

その人は手を叩いて言った。

「いいご縁がありますように」



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