ダンジョンエクスプロード 〜嵌められた落ちこぼれJKは漆黒宰相とダンジョンで邂逅し成り上がる〜

コアラvsラッコ

漆黒宰相とJK

 目の前で倒れる我が主。


 我が、神の使徒などと名乗る異世界人の相手をしている隙に、当代の勇者に討ち取られてしまった。


 なんたる失態。


 確かに魔王は我より脆弱でオツムも少しあれだったが、仕えるべき主には変わりない。


 せめて仇討ちでもと思ったが、目の前の異世界人が以外と手練れなせいで、注意を疎かに出来ない。


 ヤツも我と同じくメインは魔法攻撃なので、互いに極致魔法を撃ち合い周囲はクレーターだらけ。

 魔王と勇者が戦っていた場所より、こちらの方が酷い有り様だ。



「向こうの決着は着いたな。僕の勝ちだ漆黒宰相」


 異世界人がしたり顔でほざく。


「なに、お前を倒した後に、勇者も始末すれば良いだけの話だ」


 勝負を一気に決めるべく、愛杖である【メヌエンターレ終焉の黎】を起点にして魔力を周囲から吸い上げる。


「残念。僕の勝ちは揺るがない。魔王を倒した時点で僕は帰れるのだからね。この世界が後々どうなろうが知ったことじゃないのさ」


 異世界人が不敵な笑みを浮かべる。

 するとそれに呼応するように周囲が光に包まれ出す。


『転移系魔法……逃げる気か』


 すぐに魔法の種別を看破し阻害する魔法を組み上げる。


「無駄だよ、これは神の御業。人や魔族なんかがどうこう出来るものじゃないよ」


 光に包まれ終始得意げな異世界人。

 その表情が気に食わない。


 あと、永らく生きているが、会ったことのない神などという得体の知れないヤツの力など知ったことではない。

 我は吸い上げたありったけの魔力でディスペルマジックを構築し拳に乗せる。


 更に超加速魔法を自分に施し突進すると、渾身の力と共に、光に包まれた異世界人に向かって拳を繰り出す。


 ヤツの言う通り光の壁が攻撃の邪魔をしたが、我の魔力が僅かに勝った。

 我の拳が光の壁を無理矢理にこじ開け、突き破ると、見事ヤツの頬にめり込んだ。


「ぶへらぁ」


 当たった瞬間に見えたヤツの歪んだ顔。

 それと同時に光の渦が巻き起こり、目を開けていられなくなるほど輝きが強くなる。


 そして我も拳から飲み込まれるように渦に吸い寄せられていく。

 咄嗟に脱出を試みるが、魔力の残りが乏しい中ではそれも叶わない。

 我は引き寄せられるまま渦の中心に飲み込まれてしまう。


 不甲斐ないことに、我の意識もそれと共に途絶えてしまった。






 今日も憂鬱な実習訓練。


 私は世間一般的には女子高生という立場なのだけれど、通っている学校が普通じゃない。

 国立の高等教育も兼ねる探求者育成学院、通称STACスタック

 探求者シーカーと呼ばれるダンジョン攻略のスペシャリストを育成する学校だ。

 なので戦闘訓練が普通にある。

 それが現場での実習訓練で、STACに通っている以上避けては通れない道……そう分かっている、でも分かっていても、嫌なものは嫌なのだ。


 そもそも私は、探求者シーカーになんて微塵も興味なかった。

 見た目も地味な眼鏡っ娘で、本当なら普通の高校に進学し、平々凡々なスクールライフを満喫するつもりだった。

 しかし適性があると分かると、幼馴染達に連れられ半ば強引にこの学園に入ることになった。

 そう、私のことを魂の親友ソウルメイトなどと大袈裟に呼称する蛇光院豪姫ジャコウインゴウキ、目の前の美少女と共に。



 小麦色の健康的に焼けた肌。

 煌めくロングの金髪。

 時代錯誤な学院指定のセーラー服に身を包んでも映える。お世辞など必要ない紛うことなき美少女。

 背が極端に低いことと、話さえしなければ……。


「オハヨー、ノブヨー。なんか今日も元気ねーなー、ちゃんと朝食食ってんのかー?」


 いつもの通学路の合流地点で待ち構えていたその幼馴染みが話しかけてくる。


「はあ、朝から煩いわねーゴウキ」


 朝が弱い私に、ゴウのこのテンションはシンドイ。


「あー、だからその名前で呼ぶなって、可愛くねーだろう」


 可愛くないのは、親父さんが男の子しか想定しておらず、女の子と分かった途端に慌てて漢字だけを女の子っぽくしたかららしい。

 しかも、変なこだわりで響きだけは残したかったらしく、おかげで女の子の名前だけど。


「えっ、そうかな私は良いと思うよ強そうで」


「強そうなのはいーげどさ、可愛くねーだろう、何でノブヨはヒメって呼んでくれねーんだよー」


 ゴウとしては名前を心底嫌っているわけでないらしいのだが、周りの友達やらには漢字の姫だけを取って「ヒメ」と呼ばせることが多かった。


「いやいや、ヒメなんて、それこそゴウには不相応でしょう」


 だけど昔からの腐れ縁で中身まで知っている私としてはゴウが「ヒメ」なんてまるでイメージではない。

 

「えー、そんな事無いだろう。ほれほれこの金髪とか正に姫様みてーじゃん」


 ゴウは祖母譲りの天然金髪をサラリとかき上げる。

 その仕草だけなら確かにヒメと呼んでも差し支えない。

 でも日頃の言動がヒメらしく無いのだ。

 いくら本人に指摘したところでそれは変わらないし。


「はぁぁ、それよりさっさと行く、遅れて慧に嫌味を言われるのは私なんだから」


「えー、別に良いだろ、あんなの一発小突けば大人しくなるし」


 子供の頃から変わらない、呆れるほどの脳筋気質にため息が溢れる。


「はぁあ、お子様じゃないんだから、いい加減その考え方は改めた方が良いよ」


「えー、だってケイだぜ」


「それが駄目なの。そんなことだといつか慧に嫌われるよ」


「えっ、マジで……うそ、嘘だよな? やだ、やだ、やだよー、ノブヨとケイだけには嫌われたくないんだよ」


 本気で慌てだすゴウ。

 彼女は友達が多い方なのだが、幼い頃から付き合いの長い私と、もう一人の幼馴染である鬼垣慧キガキ ケイはその中でも特別らしい。


 まあ、私をこの学園へ入学するよう強引に付き合わせたくらいだし……ただそれで説得に負けて入学を決めた私も、なんだかんだで幼馴染を特別に思っているのだろうけど。


 そんな事を考えながら歩いているといつもの待ち合わせ場所で待つ慧が見えた。

 今やトレードマークでもある淡い縁に白いレースが施された日傘を、いつものように差しているお嬢様然とした姿。


 ゴウはその目印にいち早く気がつくと、一目散にケイの元へと向かう。


「ひゃぁあ」


 突然、豊満な胸に埋める形でゴウに飛び付かれ驚いた慧が悲鳴を上げる。


「なあ、なあ、ケイはタシのこと嫌いになってないよな、なっ、なっ?」


「なんですの突然に、ちょっと暢世ノブヨさん、貴方の仕業でしょう、ジャーコさんに変な事吹き込んだのは」


 付き合いが長いだけあって、ゴウのおかしな行動の原因が私だと目星を付ける。

 ちなみにジャーコはゴウの小学生時代からのあだ名である。


「別に変なことは吹き込んでないよ、ただ正論を言っただけかな」


「全く、このおバカに正論が通用するわけ無いでしょう」


「あー、まー、確かに」


 最もな理論に私は頷くしかなく、誤魔化すように笑う。

 呆れ顔の慧がゴウを引き剥がそうとする。


「まったく貴方達は、それより行きますわよ、離れなさいなジャーコさん」


「えー、でもケイが……」


「は・な・れ・なさい、それこそ離れないとジャーコさんのこと嫌いになりますわよ」


 今のゴウにとっては最も恐ろしい最終ワード。それを武器に距離を取らせる慧。

 小学生までは腕力が物を言うが、大人に近づくに連れて一般的には知力の方が重要になってくる。

 ガキ大将が優位に立てるのは子供の頃だけである。


「うっ、分かったから怒らないでくれよ」


 慧の言葉に従って距離を取るゴウ。

 捨てられた子犬のような瞳で慧を見る。

 それを睨み返す仁王立ちの慧。

 セミロングの赤みがかった天然の茶髪と、天然カールのくせ毛がなびく。


「うっ、今更でしょうに、もう……こんな事で貴方を嫌いになれたら苦労なんてしませんわ」


 慧はその目に絆されて、そっぽを向く。

 気持ちは分かる。

 色々迷惑を掛けられつつも嫌いになれないのは腐れ縁の私も同じだから。


「そっか、えへへっ、さすがケイ、それでこそアタシの魂の親友ダチだぜ」


 正に今泣いてたカラスがもう笑うだ。

 機嫌を治したゴウが慧と肩を組むというか、身長差から纏わり付くようにして学園に向かう。

 それを鬱陶しそうにしながらも連れ立って歩く慧。

 見慣れた光景に少しだけ頬がゆるむ。


 だがそれもため息に早変わりしてしまう。


 これからの実習訓練を考えてしまって……。





――――――――――――――――――――

読んで頂きありがとうございます。

初めて長編のコンテストに応募してみます。


沢山の方に読んでもらう為にも協力して頂けたら嬉しいです。

もちろん書くためのモチベーションに繋がりますので面白いと思っていただけたら


☆☆☆評価を頂けると舞い上がって喜びます。


もちろん率直な評価として☆でも☆☆でも構いませんので宜しくお願いします。

  



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