秋の夢
赤羽九烏
秋の夢
小さな子どもが言う。
あのくろいところにあるやつ ここにかいて
僕は言う。
分かったよ、ちょっと待っててよ。今、描いてあげるから。
小さな子どもが、また言う。
ちがうよ それじゃない。きいろくてまあるい やつじゃない。あかくて するどいやつだよ。
何言っている。あれは月といって、黄色いんだ。今日は特別に丸い。まあ、丸くない日もあるがね。
ちがうよ ちがう。きょうは あかくて とがっている。きょうは つきじゃないの。きっと。
何を言っている。いつでも月さ。日によって変わってもらっちゃ、毎日月を友に酒をころがす人間にとったら、たまったもんじゃあない。
ちがうよ ちがう。にんげんは つきをしらない。しりっこないよ。だって ぼくたちを なんのざいあくかんもなくつぶすにんげんだよ。そんなやつらに つきなんて わかりはしないよ。
確かにそうだな、人間は月を知らない。酒を友にしている奴なんて、実はいないようだな。
そうだよ それより はやく あのあかい とがったもの ここにかいて
何を言っている。だから、今日の月は、黄色くて、丸いではないか。それなら、もうここに描いた。
ちがうよ、ちがう。どうしてあれがみえないの。
僕は自分の目をこする。だけど、夜空にあるのは、同じ月。どうしようもなく、そこにある。それはきいろくて、まあるい月。
僕は目を一個だけ潰す。
だけど、夜空には、堂々と、月。きいろくて まあるい つき
最後の目を潰してみる。
やった。月が消えた。夜空だけが見えた。
だけど、赤くて鋭いものは、夜空に浮かばない。
僕は、小さな子供に聞いてみる。
やっぱり、君が言うものはないよ。
漏れる笑い声が、悲しく秋の風に乗る。
ちがうよ ちがう。ほんとうにしてほしかったことはちがう。
その時、僕の身体には一瞬、電撃が走った。だけど、大丈夫。すぐに痛みは消えた。なあんにもなかった。
僕は、今どこにいるのだろう。
誰かを上から見下ろせているのかな。
忌々しい人間に潰されたのかな。
それとも、誰かの空腹を満たせているのかな。
秋の夢 赤羽九烏 @Ioio_n_furinkazan
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