第3話 顔合わせ
俺は昼飯を済ませ、V-GATEのスタジオへ向かっていた。なぜかというと、先行体験のアドバイザーとして2日間教えるためだ。
『それにして、あの短い応募期間の間に発明した機器を全て揃えるなんて、やっぱり大手ですねぇマスター。』
少年のイヤホンからセレナの声が聞こえてくる。AIであるセレナの声が聞こえるのは、単にスマホにインストールしてあるのでいつでも一緒というわけだ。
「そうだね、全身用を揃えていますってアピールしてきたのは2社あったけど、スケジュールを押さえられたのは1社だったし。急だったのによく調整が利いたよね。」
「それだけこのコンテンツに力を入れているってことでしょうか?まぁ、稼いでいる人には個人で買えますが、複数人いるからこそのシナリオも出てきますので楽しみですね!」
1人のプレイヤーより、複数のがとれる選択肢が増えることで多分岐になるのだ。それは発展の仕方が初回で変わることを意味している。
「同じゲームをしているのに人それぞれで違う展開が見えるのはリスナー冥利に尽きるよね。」
見えてきたスタジオの玄関前に、如何にも仕事ができますという女性が立っていた。この人が今回の案内人なのだろう。なにか驚いた顔をしているがどうしたんだろうか。
「初風渚さんですね?今回はよろしくお願いします。私、V-GATE1期生のマネージャーの明石夏芽です。このICカードをお持ちください。中に入るのに必要になるのと
身分証扱いになりますので紛失にお気をつけください。」
ICカードを首にかけ、案内に従い建物の中に入る。
「それにしても驚きました。開発者の方が来ると聞いていたのでもっとお年を召した方だと思っていましたのに先日デビューしたナギサさんそっくりなんですから。」
「そのままの姿をモデリングしたので絵師に頼まずに3Dモデルが作れる利点がありますからね。特に俺は名前が知られていない一般人でSNSもしてなかったから身バレというデメリットもありませんし。」
「それでも学校で知られるのではないでしょうか?」
普通に考えたら身バレ防止でリアルをモデルにしないもんな…まぁ、俺にとっては問題なかったけどさ。
「あー、学校に通ってないボッチだから平気ですよ。学歴なんて自分で金策が可能なら必要ないですし、趣味全開で経済を回したほうが楽しいですからね。」
個人事業主は面倒な部分が多いが、セレナが居てくれるので楽をさせてもらっている。お金に関しても、市場の流れを学習してくれたので困っていない。
「学生の年齢で起業って凄いですね…」
「ん?あぁ…成人していますよ?引きこもっていたので色々と成長が遅いですが。」
自分でも自覚しているがセレナが言うには小学校を卒業したばかりに見えるとのこと。
成長期を不健康に過ごしたのが理由らしい。身長が150で引きこもっていたから筋力もなし、脂肪もなしという男っぽさがないのだ。
「そ、そうなんですか…こほん、今回のスケジュールを確認します。
1期生と顔合わせ。スタジオにて初期設定、ここから配信コラボになります。それで、本当に1期生のチャンネルでのコラボでいいのでしょうか?」
「ん?あぁこちらのVtuber垢は単なる広告用。登録者とかいらんので気にせずに。」
「助かります…この部屋に1期生の3人がおりますのでどうぞ。」
俺は促され部屋に入る。ここまでなんでコミュ障の俺がきちんと対応できているかと言うとセレナが補助してくれているからだ。きょどったりせずに堂々としていたらそれなりに見えるからな。自信なさげな態度が一番問題だし。
「お、きたきた!ってきゃはは!私と同じくらいとかちっさ!」
この高めの声は水野ネズか。特徴はガワと同じだね。まぁ自分と乖離しすぎると演じるのが大変だもんな。自分が嫌いなら素と離れたキャラを演じるほうがいいけど…
改めて見るとつり目で勝気、ふんわりとした金髪ロング(ガワはピンク)でゴシックドレスを着てお人形のようなのにそこから繰り出される言葉はまさにメスガキ。
「あら?ほんとね、もっとお年を召した方かと思ったわ。」
土宮モウ。ストレートの黒髪ロング(ガワは茶髪)、垂れ目、おっとりとした女性で包み込むような雰囲気を醸し出している。身長は女性にしては高めの170、胸も身長に合うように大きい。
「え、えっ?ショート動画の子まんまだよ!?大丈夫なの!?」
タイガーキノ。まだまだ少女と言っていい容姿、ゆるくウェーブの掛かった茶髪のショートヘア(ガワは燃えるような赤)にボーイッシュな服装でショーパンからむっちりとした脚が出ている。
3人ともガワと違う部分は髪色だけなので本体を知らない人からするとコスプレをしているように思える。似せるのはオフイベントの時に役立つという側面もある。レイヤー達が同様の格好をするし。木を隠すなら森の中ってね。
「初風渚です。Vtuberネームはナギサなのでそう呼んでくれれば。ただ、俺の場合は宣伝のためにVtuberになったので数字は気にしていません。早速ですがスタジオでPCにインストール、各機器ののキャリブレーションを済ませて配信に備えましょう。」
そう言い俺は明石マネージャーを促し部屋を出る。今回、Vtuberの本体に会うのは仕方ないとしてしっかりと距離を取っておくべきだからな。
セレナが拾ってくる掲示板の内容を見る限りガチ恋勢の厄介さは目を当てられない…ここで1期生にどう思われてもいいという安心感から強気に行ったほうがいいだろう。
部屋からナギサが出て行ったのを見計らってネズは憤慨した。
「なっまいきー!なによあの態度!ネズが話してあげてるんだからもっと媚びるでしょ!!」
「え?ネズちゃん媚びてもらえるようなこと言った?あたしは喧嘩売ってるのかなって思ったけど。」
「私はガチ恋って感じがなくて助かったわ。ネズちゃんも嫌でしょ?ねっとりとした目で見られるの。私にもそんな目をしてこなかったんだから逆に安心できるわ。」
「モーさん…私もそのほうが助かるけど…そう、プライドの問題!この2日間で私の虜にしてやるわ!」
「それはそれで問題じゃん!ネズちゃんってたまにあたしよりポンコツになるよね。」
「そこが愛される秘訣なのかもしれないわよ?」
「モーさんポジティブに捉えすぎー…まぁ、あたしも今回のコラボ楽しみにしていたからリスナーと盛り上がれるといいな!」
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