帝国軍学校(2)
卒業まであと数日のこの日、俺たちは帝国軍学校の広場に集合していた。帝国軍学校には将官コース、武官コース、文官コースの3つがあり、それぞれ校舎が違う。この広場は3つの校舎の中間地点にあり、待ち合わせにはちょうどよかった。
集まったメンバーは俺とユノの他に、新たな姫ユニットが2人。
武官コース(卒業予定)のクレアと、文官コース(卒業予定)のシンシア。彼女たちが俺の配下に加わってくれた。
さっそくだが、2人のステータスを紹介しておこう。
+――+――+――+
名前:クレア
所属:ロイル軍
統率:81、武力:78、政治:65、知略:63
特技:豪傑、連戦、訓練
+――+――+――+
+――+――+――+
名前:シンシア
所属:ロイル軍
統率:67、武力:59、政治:85、知略:77
特技:農業、商業、交渉
+――+――+――+
もう一度言っておくと、能力値の数値は「70~80」で「秀才」、「80」以上が「天才」である。
つまり、軍事の才を持つクレアと内政の才を持つシンシアを配下にすることができたというわけだ。
さすがは帝国軍学校、素晴らしい姫ユニットがいた。バグキャラ、ユノもいるし、幸先いいスタートが切れそうだ。
仲間が揃ってないとすぐに詰んじゃうからね、「タナトス戦記」というゲームは。序盤は限られた資金で、領地を一つ支配して、金の収支をプラスにしないといけない。まあ、そのへんはおいおい触れていくとして。
「2人はすでに知り合いか?俺たちが来るまで話していたみたいだが」
クレアとシンシアは目線を交わし、どちらともなく苦笑いする。
「まあ、シンシア殿のことは以前から知っている。文官コースに才媛がいると。軍学校に女は珍しいからな」
「私も同じです。付け加えるならば、私もクレアさんも卒業後の進路に悩んでいたってところですかね」
「そ、そうだな。ロイル殿には配下にしてもらって感謝している」
クレアは気まずげに目線をそらすと頭を下げた。
そうなんだよ、これだけ優良の姫ユニットなのに、他の将官たちが唾をつけてすらいなかったのだ。将官なんて姫ユニットを配下にしないと真価を発揮できないというのに。他のやつらが考えていることがよく分からん。まあ、俺は得をしたわけだが。
「俺はもう一度、自己紹介しておこうか。俺はロイル。帝国軍将官(予定)だ。そして、こいつはユノ。俺の護衛をしてくれている」
「……ユノ。ロイルの剣。よろしく」
「「えっ」」
「どうした?」
「いや、ユノ殿はその……ロイル殿の妹か、小間使いではないのか」
「私もそのように思っていました。あと考えられるのは、妾ですが、さすがに若すぎるので候補から外してました」
「……ユノはロイルの剣で、妾?」
「ユノはちょっと黙ってようなー、ややこしくなるから。2人がそう思うのは分からなくもないが、ユノは俺の護衛で間違いない」
そう断言したが、なおも疑わしげな目線を向けてくる。
いきなり信じろと言うのも無理か。配下同士で変な溝ができても嫌だし、この際、実力をはっきり示しておいた方がいいか?
「今日は『コペル』への旅のための買い物をするつもりだったんだが……その前にユノとクレアで練習試合をやろうか。ユノ、適当に遊んでやれ。間違っても大怪我をさせるな」
「……ん、わかった」
「それは聞き捨てならないな。私はこれでも戦闘実技で同期に負けたことはない。最近では教官にすら勝てる腕だぞ」
「すまない。クレアの腕を愚弄するつもりはない。お前が優良な姫ユニットであることは分かっているが、ユノは別格なんだ」
「謝ってもらうほどではないが……姫ユニット?ってのは何だ?ちょくちょく言っているが」
「そう言えば、ロイルさんは私にも姫ユニットって言ってましたね。なんですか、それ」
「姫ユニットは姫ユニットだろうが」
「タナトス戦記」の最重要キャラだぞ、お前たちはもっと自覚持てよ。
そんな話をしながら、武官コースが使う練習場にやってくる。盛り土が盛ってあるだけの簡素な作りだが十分だろう。
クレアが練習場に上がり、腰に差していた剣を抜く。真剣でやるつもりか、それだけ自分の腕に自信があり、相手を傷つけないという確信があるのだろう。
対するユノはというと、彼女は俺が買い与えた剣ではなく、とことことその辺から木の枝を拾ってくると、練習場に上がってそれを構えた。クレアの額がぴきっとなっているが、気づかなかったことにしよう。
「それじゃあ、2人とも用意はいいか。始めっ!」
先制はクレアで、剣を振り抜かず寸止めするつもりだっただろう一撃を、ユノは体を揺らすだけでかわした。
クレアも今のでユノの実力の一端が分かったのか、一撃、二撃と、剣を振るうごとにその剣閃は速くなっていき、しまいには明らかに寸止めではなくなってきているが、ユノは全てを難なくとかわす。
ユノが木の枝を使い始めた。クレアの剣は真剣であるはずなのに、木の枝で軽々と弾いていく。俺もユノとの練習でやられたことがあるが、本当にどうなってんだろうな、あれ。「タナトス戦記」には魔法なんて概念はないはずなのだが。
俺の隣で見ていたシンシアが息をのむ音が聞こえた。
唇をおののかせながら、言う。
「彼女、何なんですか……」
「知らん。俺が聞きたいくらいだ」
「えぇ?」
「俺が知っているのはユノが孤児であること。剣の握り方さえ知らなかったから、俺が教えたら30分もしないうちに俺が敵わなくなったこと。それくらいだ」
「…………」
絶句したシンシアから再び練習場の2人へ目線を戻す。
俺にはロイルとしての20年弱の記憶がある。
帝国軍学校では剣術が必須科目で、俺は帝国正統派という剣術を何年も学んでいたが、ユノには30分で超えられた。そして、今、ユノが振るっているのは彼女が生み出した我流の剣術である。
護衛として頼もしいのは間違いない。
数分後、ユノがクレアの剣を絡め取って練習試合は終了となった。
あーあ、クレアが呆然としている。忘れてたが、あいつ、色々あってメンタルが弱ってるんだった。慰めたほうがいいよな、はぁ。
「シンシア、この後は予定通り、旅のための買い物だ。商人との交渉は任せてしまっていいか?」
「はい!お任せを!産地ごとの価格も頭に入ってるので、ロイルさんに損はさせませんよ!」
ふんす、とシンシアが拳を握って気合を入れる。
もっと肩の力を抜いてくれてもいいのよ?
あ、ユノが戻ってきた。頭を差し出してくる。撫でてほしい?あー、ユノだけが癒やしだわ。
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