斬首された王妃の生首と首切り役人の男の話
藤ともみ
第1話 むかしばなし
むかしむかし。ある国に、悪虐非道、無知蒙昧、厚顔無恥の王妃がおりました。
民は重税を課せられ、その日のパンにも困って、ひもじさに喘いでいるというのに、王妃は毎日贅沢なドレスに身を包み、王宮のごちそうをたらふく食べて、昼は乗馬に音楽会、夜は毎晩舞踏会で踊り狂って遊んでばかり。
王妃の贅沢で、国のお金は底をつき、とうとう怒った民衆はついに反旗を翻しました。お城を襲撃し、悪い王様と王妃様を捕まえたのです。
つかまった王様と王妃様はボロの囚人服を着せられ、牢屋に閉じ込められました。粗末な食べ物を1日1食だけ与えられるのみで、お二人はどんどん痩せていきました。憔悴したお二人に対して、民の怒りはおさまりませんでした。
「この女が陛下を誑かすからこんなことになったのだ」
「けがらわしい魔女め。首をちょんぎってしまえ」
形ばかりの裁判で、王妃様は斬首刑をくだされました。かつての豊かな金髪は心労の為に真っ白になっておりましたが、その髪は、斬首するのに邪魔なので、首から上のところでばっさりと切られてしまいました。
ボロを着せられ髪を短くされ、宝飾品をすべて取り上げられて痩せこけた王妃様の姿を見て、人々は力いっぱいの罵声を浴びせました。しかし、王妃様の瞳からは光は消えていませんでした。彼女は毅然としたおももちで、首切り役人の男に向かってにこりと微笑むと、断頭台に頭を乗せました。
こうして悪い王妃様は首を刎ね飛ばされて死んでしまいました。民衆たちは狂喜し、王妃の身体は焼かれました。
革命軍のリーダーが指揮を取って新しい国の形をつくり、民衆たちは王家の人々のことなど忘れ去ってしまいました……そのはずだったのですが。
「おはよう、シャルル! 起きて。今日も素敵な朝よ!」
……胴体と分かたれた王妃の首は、何故か処刑を執行した首切り役人のもとにやってきて住み着いて、このように朝の挨拶を交わすのです。
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