第557話 帰郷②

 『ルッサ』の件でしばらくはであることを求められた『黒龍団』は、黙々とゲーマンらからの命をこなしていくことになった。


 ただ、それだけに甘んじてはいない。まず、マイアの『仕立て屋』で団固有の服が作られた。団長作と言うことで皆が恐れ慄いたが、お出しされたのは意外にも上等なものだった。上生地の黒に多数の 衣嚢がついており、背と右上腕にはその名を模した『黒龍』の刺繍がしてある。


 全員分とはいかないものの、古参、ジシルキラリ、ハレニー団にはしっかりと寸法もあったままで行き渡り、上々の評判であった。


「姉御は趣味を出さなきゃいいんじゃないかね?」


 キラリがそう評した通りかもしれなかった。ゼダラ、リスキルも手伝ったとはいえ、今回は結束と意識の高揚を狙った行動であり、マイアの嗜好は反映されていない。ただ、彼女はそれを不服としているが。


 モノらジョウの直属部隊にも、『茨雛龍ソンブラ』という名がついた。さらに、増員の中からの人選が成された。遠征の際、少年の睡眠のために随員が固定されるのを防ぐための措置だった。


 それまでその役を担っていたクラハらは嫌な顔をし、ジョウも恥部を多くに知られるようでいい気分ではなかった。特に『悪夢』の正体を隠しておきたい少年にとっては有難くない。が、逃れんと躍起になっているものの、解決への糸口も見えていない現状において他に手がないのも事実だった。


「私達ソンノが副団長殿のお世話をいたします」


 モノと同じく、判別がつかない格好の集団であった。名も共有しているようで、徹底して『個』を消す方向であるようだ。しかし声と体躯から、その一人がエモルと同じくらいの少女であることは判別できる。


「どうかご容赦を」


「お、おう………ほどほどにな」


 ジョウはそう答えるしかない。この道を選んだからには、そうせざるを得ない事情があるのだろう。ヒャンナらといい、『大元』を変えねばは終わらないのだ。少年は密かに、『野望』の成就を強く意識するのだった。


 前にも増して鍛錬に打ち込み、折を見ては『避難所』へ飛んでカラフィナたちの様子も見に行く。精神修行として座禅や水行も取り入れ、プットランがやっている瞑想にも一緒に参加してみた。根は大雑把でいい加減、頑固で人の好き嫌いも激しい田舎育ちの粗野な少年ながら、こと強くなるためには非常に生真面目な努力家であった。彼を良く思わない者でも、その点は認める他ない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る