第484話 拡張②

「うちの兵を集めるのだ」


「うん?」


「数集めろってプットランとゲーマンに言われたんだ。リオウ呼んできてくれ」


 怪訝にしつつもジークが動き出し、サクラも続いた。エモルはジョウの護衛をするとうそぶいて傍にいたまま茶を淹れようとして、お前も行けと叱られていた。



 かくして始まった《勧誘》では、ジョウは待っているだけで良かった。リオウは水を得た魚のように積極的に動き、少年は時折あがる報告を受け取り、それをそのままマイアへ渡すのみで済んでいた。その内容もあまり理解できず、一人か二人引っかかればそれでいいだろう程度の軽い気持ちだった。


 ところが、意に反して多くの人員が集まって来た。『黒龍』ダイオン、『貪る蝕緑』バニャンと名のある傭兵を下し、戦いに勝利を重ねた『黒龍団』、あるいは『少女趣味の小僧団ニーニャ』の看板はそれなりに《そそる》ものだった。


 また、ゲーマンが指摘したように、彼が治癒し保護区を与えた元罹患者とその関係者たちからも志願者が現れた。満ちれば飽くの言葉通り、『疫病』を克服し人間的な生活が送れるようになると、より良い待遇を求める貪欲な者が必ず出て来る。一方で、純粋にジョウへの恩返しのためにと名乗りを上げる者も少なからずいた。


 ジョウの目に留まろうと、直接『黒龍団宅』へと出向いてくる者もいた。エモルは邪な心を抱き、サクラと共謀していつかのように《手土産》の着服を目論んだが、察した少年に制裁された。


 結局、ゲーマンら、マイアとハレニーの人員募集でもかなりの人数が確保でき、一応の目的は達成できた形になった。『黒龍団』とジョウの名を大々的に出し、報酬も惜しまなかったことが功を奏した。


 しかし、その多くが直属護衛『黒龍団』でなく、『リクルチュア』軍へと組み込まれたことでひと悶着があった。『ラギラス』、『ルッサ』と同盟し、キナッツ将軍の反乱を潰したとはいえ、『南の橋』は『レンハイン』を敵に回している、無能者プットランが率いる前途に暗雲立ち込める地には違いなかった。


 そもそもが、『黒龍団』に連なることが出来るとの謳い文句である。過去は詮索せず、『リクルチュア』の正規軍になれることが、文句よりも魅力的だと言う者は少なかった。総括などは率いる軍が増えたと上機嫌であったが、不満を抱く彼らを直接指揮監督することになる下級指揮官らは早くも頭と胃を痛めていた。


 『黒龍団』自体もナビの遺産ルーン持ちを麾下へ組み込まれ、組織編成に苦心することになる。簡単に加入と言っても、せねばならぬことは山ほどあった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る