第236話 お引越し⑪
ジョウは、深く呼吸をしてからクラハへと体を向けた。
「クラハ、今ここに、何人いる?」
「は?」
「何人、今ここにいるかって聞いてんだよ」
「……ろ、6人?」
「よし、一人ひとりの格好を説明してくれ」
戸惑いながら、丸顔の少女は言うとおりに、カラフィナ、ヨム、サクラ、キャコ、自分に少年の姿かたちを述べていった。聞き終わった少年はと言うと、頷いたのち自身の頬をつねり、彼女にもつねらせた。
それから、一人一人の顔を覗き込んでいった。カラフィナは動じず、ヨムはいつも通りの微笑みを崩さない。サクラはにやにやし、キャコは困ったように眉を下げる、クラハは病人を見るような目で見返した。
それも終えると、少年は体をほぐし、何度も頷きクラハの両肩を叩いた。
「寝るぞ」
言葉のまま、少年はそれから誰に何を言われても無視し、キャコに寝室まで案内させると、そのまま横になった。豪華絢爛、挿絵で見た王侯貴族のような内装であったが、一切の関心を示さずにただ横たえた。当然、妹、ダイオンと再会しおぞましい責め苦を味わう。が、ジョウは膝を貸そうとするクラハを押しのけ、悪夢による眠りからの覚醒を繰り返し続けた。
他の面々は根気強く声掛けを続けたが、無視を通され諦め、それぞれに一夜を過ごした。カラフィナらも、外へ出ていこうとまでは思わなかった。
そして翌朝、疲れをにじませながら起床したジョウは、皆を集めるとまったく同じ不可解な動きを繰り返した。その上で深く考え込んだのち、ようやく一言言葉を発した。
「幻じゃねえな」
「何を言っとるんじゃお前は」
「いや、だって、なあ? 本当にお前カラフィナだよな?」
「当たり前じゃろう。他の何に見えるんじゃ」
「う~ん……、何か自信なくなっちまって……お前ら全員、俺の妄想ってオチはねえよな」
「本当にどうしちゃったんです、ジョウさん」
「いるよな、クラハ? みんな、本当にいるんだよな?」
吉事であるカラフィナらとの再会、それがあまりにも唐突であったため、少年は現実味を確たるものにできていなかった。何よりも望んだものが手に入った瞬間、始まるのは喪失への恐怖である。
「もう、しっかりしてください」
少女は、そのような少年の機微などどうでもよかった。頼るべき相手が自失にあってはこちらが困る、彼の手を取り、両の手でしっかりと握りしめる。
「ほら、これが幻です? 私も、他の皆も、しっかりいます」
ジョウは、握られた手に伝わる感触と体温をただ受け止めた。サクラを除く一人一人に同じ真似をし、最後に自分で自分の頬を強く張った。
「そう……っぽいな」
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