第225話 狙われた黒龍⑦

「魔法は、札にする以前の状態です」


「まあ、そうなるか」


「魔法で同じこと……『焔斬剣ゲシャムゥ』を再現しようとすると、とてつもない訓練が必要です」


 経験者は語る。


「だから、ナビの遺産ルーンは誰でも使えるし強力です。でも、魔法使いのたちの間では軽く見られています」


「あん?」


「そこは私がお教えしましょう」


 キャコが引き継いだ。


「魔法は才と努力、そして時を要する技術なのですわ。それだけに、一人前と認められた魔法使いには栄達が約束されます。血族ごとの優遇さえ」


 少しだけクラハは嫌な顔をした。両親の口癖であった。


「彼らからすれば、魔力さえあれば使えるナビの遺産ルーンは下等なもの。実際に魔法で再現する以上の魔力を消耗する欠点もありますわ」


「そこが召喚型とかにある、召喚維持に必要な魔力ってことだな」


「その通り、加えて魔法と違って研鑽による成長が見込めません。しかも、ナビの遺産ルーン自体が魔法使いの落伍者によって作られたものであるというのも、蔑視に拍車をかけていますわ」


「じゃあ、魔法使いの方がずっとすげえのか?」


「そうとも言い切れませんわ。魔力があればだれでも使えるという利点は無視できませんし、研鑽を積まずとも偉大な魔法使いに匹敵する力を奮えるのも事実。多くの国々では、すでに主力がナビの遺産ルーンへと変わっていますわ。魔法使いたちもまだまだ権勢を残してはいますが、絶対ではありませんの。何しろ一人前になるまでに時間がかかりすぎますし、狭き門に過ぎますわ」


 広い話を出されるとジョウは気おされてしまうが、魔法使いなる連中とナビの遺産ルーン持ちの間で勢力争いがあるというのはわかった。それから、札の持つ長所と短所、自身に傷を負わせたミナキスの術が魔法の一種であるとも。


「魔法はナビの遺産ルーンみてえな動作はいらねえんだな」


「手間がかからないのがいいところです。そうなるまでが大変ですが」


「そういう奴もいるってことね、ちゃちな魔法でも使える以上は立派な武器よ」


「俺もまだまだってことか、あーあ」


「連中は殺したんでしょ? ま、今度から気を付けることね」


「だな……」


 ジョウは頭を下げた。


「みんな、悪かった。そして、手当してくれてありがとな」


 この時ばかりは、皆が一様に柔らかな苦笑を浮かべていた。少年のまっすぐな感情は気恥ずかしさとともに、荒んだ美女らに安らぎをもたらしていたのだった。



 療養の日々、ジョウが回収してきたナビの遺産ルーンの分配の段になって、自分に分け与えられた分と、宿すように美女が選定した分の受け取りを彼は拒否した。ダイオンを侮辱した連中のものを宿したくないと、駄々をこねたのだ。

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