第2話(改)
霧によって世界が染まる前と後とで、傭兵の在り方は大きく変わった。
これまでは無法者の集団であるという認識の強かった彼等であったがとある組織の設立によって、都市国家とは別の指揮系統の下に管理・統率された軍隊へと生まれ変わったのだ。
『ソルダードギルド』と呼ばれるこの組織の歴史は浅い。
ギルドが設立がされたのは霧によって都市間の交流が途絶えた後であり、未だ10年も経っていない新興組織である。
しかし、その影響力は大きい。
登録された傭兵の適正にそった依頼の斡旋、数百人規模となる
最早ミストという脅威に対し、傭兵の力は不可欠だ。
そして彼等、傭兵の中でも、その実力が評価された者達。
ある者は傭兵団を率いた、ある者は群れる事を良しとせずに単独を貫く者もいた。
ソルダードギルドにおいて、彼等は上位傭兵と呼ばれ一目置かれている。
―――ミストと呼ばれる巨大な怪物が三体、こちらを見下ろしていた。
中途半端に人間と同じ顔立ちをしたコレ等に対して嫌悪感以外に何を感じるだろうか。
『qうぇrやmty」
「はっ、何言ってるか分からないんだよ、気持ち悪い」
開かれる口から聴こえるのは人の言語ではない、ましてや獣の唸り声ともまた違う。
聴く者を不快とさせる雑音だ。
剣戟が鳴り響く。
ミストの巨大な鉤爪と守備兵や傭兵達の得物がぶつかり合う。
血は流れ、肉片は散らばる。
それは力無く倒れるミストの巨体からか、もしくは無惨な亡骸となった同胞達の流すモノか。
気に掛けるな、今はただ目の前だけを意識しろ。
返り血を拭うように剣を一振りし構え直す。
何時と何も変わらない、ただ作業的に、ミストを殺す。
アラタは動く。
まずは正面の一体から
『rtsたsけ』
「黙れ」
三方向から振り下ろされるミストの巨大な鉤爪。
しかしその動きはアラタからしてみれば緩慢で、時間差に繰り出される三つの攻撃程度、避ける事は容易い。
正面のミストの肥大化された右腕を足場にして跳ぶ、そして勢いそのままにミストの頭部の上半分、あっさりと斬り飛ばす。
次だ。
頭部の上半分を失い、倒れかけるミストの巨体へとそのまま跳び乗り、勢いを残したまま再び跳んだ。
二体目、アラタからみて右側のミストの頭上。
空中でバク転する形から、剣を振るう。
頭上を飛び越え、すれ違いざまに今度は首から斬り飛ばした。
最後だ。
地面へと着地した瞬間を狙ったのだろう。
三体目のミストの鉤爪がアラタのすぐ傍まで迫っていた。
『t.wqなnd』
「小賢しい…!」
アラタは剣で受けた。
しかしミストの膂力をまともに受ける訳にはいかない。
剣先を反らして、そのまま受け流す。
鉤爪は地面へと叩きつけられ、砂埃が舞う。
アラタはミストの足元へと、そして剣はミストの足筋を捉えた。
左足に深い切り傷を残し、ミストはその一撃によってバランスを崩し膝を着いた。
奴の頭部がすぐ手に届く範囲まで下りてきた。
「死ね」
今更何の容赦が必要か。
三体目の頭部もまた先の二体と同じ様に斬り落とした。
城塞都市「ニヒト」
外界からの脅威を防ぐ為、街全体が広大な城壁によって覆われている。
大きく分けて四つの区域に分けられ、それぞれの区域によって都市生産で必要な要素が分担されている。
第一中央区域、第二都市区域、第三生産区域、第四農産区域。
その中の区域の一つ、第四農産区域にある住宅地の一角にアラタ・アカツキの住処はあった。
「……ふぁ、寝てたか?もしかして」
眠たげに開かれた目。
寝癖が出来た髪を掻きながら、涎の垂れた机から顔を上げる。
傭兵となり、10年が経った。
霧に家族を飲まれ天涯孤独となり、それからはひたすらに我武者羅に突き進むばかりだったと思う。
傭兵として個の力を鍛え続けた。
時には同僚の傭兵達と共に、都市の守備隊に協力しミストの掃討戦において率先して前へと出続けた。
そうして今では若年ながらソルダードギルドより上位傭兵の一人として評価されるまでに至ったのだ。
ここまでの全ては無駄になっていない。
そう確信を持って言える程に、彼は強くなる事が出来たのだ。
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