第9話 か、勘違いだから!
どれだけ断ったか分からない。きっと、「ダメ」という言葉を使った数は、両手で数えられる分をとうに超えているだろう。けれど今、
本当にこれからどうなってしまうのか。母さんと父さんは幽霊が見えないから、詩音さんがいることには気づかない。あとは、僕と詩音さんが話している姿を見られて、「息子が一人でしゃべってる。もしかして頭がおかしく……」みたいにならないよう気をつけなければ。
「名前聞いたことあるやつはっけーん。読ませてもらうね」
僕の不安をよそに、弾んだ声で本棚から漫画を抜き取る詩音さん。そのまま、僕のベッドに座り、漫画を読み始める。
……自由だなあ。
にしても、この状況、なんだかムズムズする。
思い返してみれば、詩音さんと僕はそれほど年が離れているわけではない。年の近い異性を部屋にあげるなんて、ほぼ未経験。一応、春野だけは部屋に招待したことがあるが……まあ、それは例外というか、特別というか。
「おー。おもしろいね、これ」
「詩音さん」
「むむ。そう来たか」
「あのー。聞いてますか?」
「ちょっと待って。今いいところだから」
詩音さんは、すっかり漫画に夢中になっている。初めて来た異性の部屋で、よくもまあここまでくつろげるものだ。
「はあ……。詩音さん。僕、晩御飯とシャワー済ましてきますから。本棚の漫画は好きに読んでください」
「はーい。いってらっしゃい。ごゆっくりー」
漫画から顔を上げることなく返事をする詩音さん。「ごゆっくり」なんて、本来はお客さんに対して使う言葉のはずなのに。いつの間にか、僕と詩音さんの立場が逆転してしまっているような気がする。
疲労感満載の体を動かし、僕は自室を出た。一階に降り、用意されていたご飯を食べる。母さんから生暖かい視線を浴びせられたが、無視。食事を終え、シャワーを浴びる。浴室から出た頃には、疲労も少しだけ回復していた。
ちなみに、僕の家に来る道中聞いた話だが、詩音さんは幽霊になってから、食事や睡眠を一度もとっていないらしい。生きている人間なら当たり前にあるはずの食欲や睡眠欲が無くなってしまったせいなのだとか。加えて、疲労感を感じることもないとのこと。幽霊の体というのも不思議なものだ。
「詩音さん、戻りました。…………何やってるんですか?」
自室の扉を開けた先。思いもよらぬ光景に、僕の口は自然とそう告げていた。
「そ、
詩音さんは、僕がいることに気がつくと、焦ったように体を起こす。それはまるで、自分がやましいことをしていたと白状しているかのよう。
「……ベッドの下に面白いものなんてありませんよ」
「か、勘違いだから! べ、別に、ベッドの下にそういう本があるかもなんて期待したりなんてしてないから! あまつさえ、ちょっと読んでみたいなとか一ミリも思ってないから!」
あ、幽霊でもそういうことに興味はあるんだ。
数秒後。自分の発言に赤面する詩音さんがそこにいた。
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