異世界なのに言葉が通じるのはおかしいだろ!(ド正論)

異世界語の呪文の発音が難しすぎて魔法が使えない

★前回までのあらすじ

 異世界に流れ着いた俺は師匠クソやろうに魔導武器の使い方について指導を受けていた。


「いいか、こういう武器には刀身のどっかに象形文字タトタトが刻んである。で、こうやって古典ヴェリティ語で呪文を唱えるとそれに反応して魔術が発動する」

 師匠は解説しながら腰に差していた刀を抜くと、刀の柄を握り締め『燃えろクルヤ』と言いながらブン、と大きく振り回した。すると刃先から火花が散って刀身が僅かに青く光り、一瞬で刀が赤い炎に包まれた。

 恐れ戦く俺を見て、師匠は痛くも痒くもないという様子で苦笑した。

「こんなんでもバカみてえに驚いてくれてウレシイけど、本当に強い奴と比べると俺の魔力の血は別に大したことねえんだ」

 師匠は一旦火を消してからその刀を俺に手渡してきた。

「おい、お前。さっき俺がやったようにこれを使ってみろ」

 俺は何も言わず、手を刀の方に伸ばしかけたまま固まってしまっていた。

「ほら、やるだけやってみろって」

 師匠にけしかけられて、俺は震える手で柄を握り締め、師匠がやったのと全く同じように呪文を口にした。

「……『燃えろクルヤ』」

 彼の言葉と同時に軽く火花が散ったが、それ以上は何も起きなかった。俺はもう一度刀を振り回して呪文を唱えてみたが、やはり刀に火が灯ることはなかった。

「……なんでできないんでしょうか?」

 俺は素直に自身の疑問をぶつけた。すると師匠は彼の手から刀を回収し、再び説明した。

「そりゃお前の発音が間違ってるからだ」

「えっ」

 師匠は口を思い切り大きく開けて、汚い舌を俺に見せつけた。

「いいか、お前のさっきの発音だとKULUYAになってる。正しい発音はKURUYAだ」

「クルヤ?」

「ちげぇよ、バカ!! KURUYAだ、KURUYA」

 突然激しく叱責されて、俺は震えあがった。そして恐る恐る日本語母語話者ができる範囲でもう一度正しく発音しようとした。

「……KULUYA?」

「ちがーーーーうっ!! そうじゃねぇよ! RUだ」

「ル?」

RUだ」

「……ルゥ?」

RUだ、RU!」

LU?」

RRRUだって! ほら、イタリア人のマッテオはちゃんと言えてるぞ!」

「Ciao! Ru! Per esempio, rucola!」

「なんで突然イタリア人が? 一体どっから出てきたんだ?」

「そんなことより練習に集中しろ! はい、RRRU!」

「ルルル……」

RRRRRRRRRRRRRRRRRUだッ!!」

 師匠はそのまま実に三十分ほど俺の発音を直し続けた。執拗に何度も叱られ続けるうち絶望的な無力感に苛まれた俺は、だんだん自分の出自を呪い始めた。

「もういい、やめろ。やっぱお前らみたいな舌の短い下等人種には不可能だ」

 これ以上なくひどい暴言を浴びせられて、俺は打ちひしがれた。

 ――やっぱりこれは日本人おれの宿命なんだ。俺にはムリだ。

 異世界に来たらチート能力が覚醒したり可愛いエルフの女の子とハーレムできる。

 そう信じて疑わなかった俺だったが、ここでようやく厳しい現実に目覚めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る