宴会

 夜になると、稲葉山城改めて、岐阜城と命名された城の敷地内で、大きな陣が構えられた。中央には、料理と美濃国から集めた酒が置いてある


「では、皆揃ったな」


 信長は、そう言うと辺りを見渡して、新しくなった家臣団を見る。


「新たな一門となったリンに乾杯!」


「かんぱーい!」


 信長の家臣達は、酒を飲んで食事を始める。


「リン様、結婚ってどういうことですか!?」


 ただの会議で終わると思っていたロイは、宴会の場で結婚の事実を知り、腰を抜かしそうになっていた。


「ロイ、慌てるな形だけだ」


「形だけなのですか……それなら良かった」


 ロイは、ほっとしたような顔になる。


「本当に形だけかしら?」


 カグヤが俺の隣に座る。


「どういうことだ?」


「カ、カグヤ! どう、どういうことだ!? かてゃちだけって!?」


 ロイは、大きく取り乱している。最後の方、言葉にもなってなかったぞ。


「ロイ、落ち着きなさいよあんた」


「でゃって」


「私の予想だから。本当かわからないけど、本当に形だけの縁組みなら、こんなに盛大に祝う必要があったのか疑問に思ったのよ」


「た、確かにな」


 言われてみれば、そうだ。形だけの縁組みにしては、規模が大きすぎる気がする。


「数百年生きている私だけど、信長って言う男が持っている、野心が読めないわ」


「それは、俺も同じだ。信長は、目標に向かう行動力はすごいが、それ以外のことはなにを考えているか、わからない。なぁ、ロイ?」


 俺は、ロイにも同意を求めようと、ロイの方向を振り向く。


「リ、リン様が結婚。先代様に、なんて顔向けをしたらいいのでしょうか?」


 ロイは、地面にうつ伏せになって地面と会話するかのように、言葉を発している。


「しばらく、会話できそうじゃないわね」


「そうだな」


 ロイについては、後で対応することにしよう。


「いいなー、姫様と結婚―」


 俺の隣に、桃が団子を食べながら、座った。


「桃いつの間に」


「宴会に行けば、白馬の王子様に出会えるチャンス!」


「そうそう。白馬の王子様に出会えると思って……なにを言うのよ!」


 カグヤが、桃の真似をして、桃をからかった。


「桃は、驚かないんだな」


「当たり前でしょ。私は忍びなのよ。そんな情報、徳姫が住んでいる屋敷に潜り込めば手に入るわよ」


 それは、不法侵入って言うんじゃないか?


「てか、そんな情報入手していたなら、教えてくれ」


「徳姫が、『絶対に周りに口外しないでね。リンを驚かせて、あげるんだから』って張り切っていたから、忍びである私も黙っておこうって思ったのよ」


「それなら、仕方ないか」


 もし、俺がそのことを知っていたら、『口外したの誰よ!』って怒って、織田家の家臣みんなはりつけにされていたかもしれない。


「なんか、私のことで失礼なこと考えていない?」


「うお! 徳姫!?」


 後ろから、徳姫に話しかけられた。


「その反応、図星?」


「ま、まさかー」


 徳姫に詰め寄られる。


「リンって尻に敷かれるタイプだよね?」


「うん。間違いないと思う」


 カグヤと桃は、俺の隣で会話をし始める。


 せめて、俺の耳に聞こえないとこで、その会話をしろ。


「なぁ、リン。こっちに来て飲もうぜ!」


「美濃三人衆の人達も挨拶したいとよ!」


 利家と勝家に呼ばれる。


「今行くー!」


「まだ、私と話しているでしょ?」


 徳姫が、俺を呼び止めようとする。


「それは、また後で」


「こらー、逃げるなー!」


 もう、俺の頭の中にあるメモリがパンクしそうだ。一度、落ち着くためにも男だけいるとこに行こう。


「ははは! 愉快だな!」


 信長は、俺の方向を見て、大声で笑う。人の慌てている姿を、酒のつまみにするな。


「でも、まぁ賑やかだから、これはこれでいいか」


 日本に来て、一番楽しかった宴会は、あっという間に終わりを迎えた。

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