櫓へ立て籠る

「リン。俺は、一人目を倒したぞ!」


 利家は、自慢げに言う。


「俺は二人目だ」


 俺は、地面に倒れている影の二人を指さした。


「やるな!」


 利家は、俺の方を見ながら、ノールックで相手の攻撃を防ぐ。


 前から、思ってはいたが、利家は化物じみた戦いのセンスをしている。


「本当、あんた達、戦い馬鹿ね」


 桃は、敵の攻撃を軽くかわしながら、カウンターの攻撃を決めて敵を倒す。


「て、敵襲だ!」


 騒ぎを聞きつけたのか、斎藤軍の兵が俺達に気づいて、ホラ貝を鳴らした。


「リン。ここに長居できなくなったぞ」


「わかっている。早く、この場所から離れるぞ」


 俺と利家は、戦っていた影を一人倒して、その場から離脱しようとする。


「待て!」


 影は、俺達を追撃しようと後ろから追いかけて来た。


「残念。あなた達は、ここから先は追いかけられませんー」


 桃が、拳サイズの玉を何個か投げると、辺りは白い煙に包まれた。


「え、煙幕か!?」


「め、目がいてぇ! 気を付けろ、この煙幕に何か仕込んでいるぞ!」


「煙幕に紛れ込ませているのは塩よ。よく、目をすすいでおきなさい。掻かないように」


「くっ、まてぇ!」


 影の叫び声は聞こえるが、追跡してくる気配がない。今のうちに、逃げるしかないな。


「桃、助かった」


「借り、一つね。この戦いが終わったら、尾張のスイーツを奢りよ」


 桃は、自慢げな顔をする。


「リンよ。逃げられたのはいいが、俺達はどこに行けばいい?」


「敵に見つからない場所だな。できれば、織田軍が来るまで隠れられる場所が良い」


「そんな都合が良い場所あるか?」


「さっき、助けに行く時、使われていないやぐらがあったわ。おそらく、改修した際に必要がなくなったのね」


「よし、その櫓に向かおう」


 俺達は使われてない櫓を目指して移動を始める。



「ここが使われてない櫓ね」


「今は、武器庫の代わりになっていたみたいだな」


「弓と槍それに刀まで、基本の武器は、なんでもあるな」


「織田軍が、来るまで、ここで耐えるぞ」


 俺達は、敵が来るまで防衛の準備を進める。


「敵は、こっちの方角に逃げたぞ!」


 斎藤軍の追手だと思われる敵の声が聞こえた。


「来たぞ」


「慌てるな。まだ、相手はこっちに気づいてない」


 櫓の隙間から見ると、松明を持った男達が、周囲を警戒している。


「近くにいるはずだ」


「ここから奥は、門を通らないといけない」


「探せ! 近くにいるはずだ!」


 男の一人が、櫓に近づいて行く。


「来るぞ」


「まだだ。もう少し待て」


 男が、どんどん近づいて来て、櫓の扉に手をかけた。


「今だ!」


 櫓の扉が勢いよく開き、利家が扉を開けようとした兵士を槍で突き刺す。


「て、敵だ!?」


「桃!」


 俺の言葉と共に、桃は櫓の上から弓で残る二人の男を射る。


「あそこにいたぞ!」


 近くにいた斎藤軍の兵が、俺達の存在に気づく。


「急いで施錠しろ! 敵が来るぞ!」


 利家と共に、入口の扉を施錠し、櫓の中に置いてあった木箱などで、入口を封鎖した。


「リン! 早く来て!」


 桃に呼ばれて、櫓を上がって屋上から状況を確認する。


「あっという間に、取り囲まれたな」


 周りには、おびただしい数の松明を持った斎藤軍がいた。


「信長様が来るまで、持ちこたえるぞ。ここからが、正念場だ」


「攻め落とせ!」


「おおおお!」


 斎藤軍による、櫓への攻撃が始まった。


「まずは、弓で応戦だ!」


「わかった!」


 利家と俺は、武器を弓に持ち替えた。


「ぐあ!」


「うわ!」


 斎藤軍の兵士が矢に射られて、倒れていく。


「そんなに固まっていると危ないよー」


 桃は、そう言うと空に向かって手の平サイズの玉を上に投げる。空中で爆発すると、石みたいな大きさの小さな塊が斎藤軍に向かって落ちていく。


「な、なんだ!?」


「いた! まきびし!?」


 空から降り注ぐ小さな塊に、斎藤軍は、ほんろうされ行進が止まった。


「爆弾の中に込めておいたのよ。ほら、お腹いっぱい食べなさい!」


 桃は、そう言うと、どんどん爆弾と呼んでいた玉を空に投げる。あの中に、まきびしが入っているのか。斎藤軍の慌てようをみると、敵の動きを止める物らしいな。


「リン。相手が動けなくなっている。どんどん、矢で射るぞ!」


「あぁ!」


 俺と利家は、次々と斎藤軍の兵士を射る。


「なにをしている! 敵は、数人だぞ!」


 指揮官であろう男の焦った声が聞こえる。


「利家」


「どうした?」


「敵が数百人いるのに対して、俺達三人の籠っている櫓を落とせていない。この戦は勝ったのも当然だ」


「そうなのか?」


「あぁ。このまま釘付けにしとけば、織田軍は絶対に攻めて来る。信長は、この好機を絶対に逃さない」


「そうだな。信長は、絶対に来る」


 利家は、そう言い斎藤軍に向かって矢を放つ。


 一瞬、斎藤軍の中から反射する物が見えた。それを認識した瞬間、肩に強い衝撃が襲った。


「ぐっ!?」


 肩を見てみると、一本の矢が俺に刺さっていた。

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