稲葉山城潜入作戦

「リン、頼みがある」


 軍議が終わろうとした時、信長に話しかけられた。


「なんでしょうか?」


「リンには、利家率いる別動隊に参加しておいてほしい」


「わかりました」


 俺は、信長の命令に従い利家率いる別動隊に加わることにした。


「リン様、私達はどうすればいいですか?」


 陣の外を出ると、ロイとカグヤ、桃が待っていた。


「桃は、稲葉山城の偵察を頼む」


「わかったわ」


「カグヤとロイは、俺について来てくれ。俺達は、利家率いる別動隊と行動を共にする」


「りょうかい」


 カグヤ達は、頷く。


「よ、リン」


 ロイ達と話していると、利家に話しかけられた。


「俺の作戦に参加してくれてありがとうな」


 先月の合戦でも、利家と一緒だったし、なにかと利家とは縁があるな。


「よろしく頼む」


「おう、よろしく」


 俺は、利家と握手を交わした。


「兵は、どれくらい連れて行くんだ?」


「あんま大所帯にはなれないから、信長様から十人ぐらい精鋭を連れていいって許可をもらってきた」


 利家が向ける目線の方向を向くと、戦う準備のためか、刀など手入れしている織田軍の兵がいた。あそこにいる者達がついてくるのか。


「それにしても、どうやって新しく穴を掘るんだ?」


「それは、こいつらを使うんさ。出てこい野郎共!」


 利家が、そう言うと奥から子供の背丈をした二足歩行の動物が数十体現れた。


「これは、動物? それにしても、見たことのない種だ」


 全体的に丸く、目の周りが黒い。アライグマと似ているが違う。なんの動物だ?


「タヌキってやつだ」


「タヌキ?」


「利家さん」


「うお、喋った!?」


 妖怪だから喋るのは当たり前か、こんな動物にそっくりな妖怪もいるんだな。


「なんだい?」


「久々に俺達、化けタヌキを呼んだかと思ったら、化ける仕事じゃなくて、穴掘りですかい?」


「そんな固いことを言うなよー。穴掘り得意なのは知っているんだ。その力、貸してくれない?」


「まぁ、人間が食べている飯が食えるなら、それが交換条件で」


「わかった。約束する」


 化けタヌキと呼ばれていたタヌキ達は、利家の返事を聞くと、頭の上に葉っぱを乗せ始めた。


「それなら」


 化けタヌキは、白い煙に包まれる。


「さっさと、済ませちゃいましょう」


 化けタヌキの頭にはヘルメット、そして手にはスコップやピッケルなど、穴を掘る道具が握られていた。


 この妖怪、道具を葉っぱから出したぞ。つくづく、不思議な妖怪だ。


「よし、じゃあ始めてくれ」


 化けタヌキ達は、稲葉山城がある山に向かって行く。


「なぁ、そこの若いの」


 化けタヌキが向かうのを眺めていたら。一体の化けタヌキに話しかけられた。


「どうした?」


「そこの嬢ちゃんも妖怪かい?」


 化けタヌキが、指さす方向には、カグヤがいた。


「そうだよ」


「かー、上手く人間に溶け込めているなー、感心するわ」


「人間の姿になるのって難しいのか?」


 そういえば、妖怪の存在は知っているが、妖怪自体あまり見かけていない気がする。


「難しいぞー。ぬらりひょんとか、強い妖怪じゃないと人間の姿に化けられないんだ」


「そうなのか」


 うちらで言う、魔族と妖怪みたいな感じか。魔族は人間の姿に近いが、魔物はどちらかというと、人間からかけ離れた外見をしている。


「俺達みたいな、弱い妖怪は山や海の中で、ひっそりと暮らしているのさ」


 化けタヌキは、そう言うと先に進んでいた仲間達の後を追った。


「俺達も行こう」


 俺は、ロイとカグヤを引き連れて利家の後に続いた。



「ここなら、斎藤家の兵にも、ばれずに作業が進められそうだ」


 利家と俺は、稲葉山城がある山にたどり着き、敵から死角となる場所を探していた。


「化けタヌキのみんな、頼んだ」


「任せておけ」


 化けタヌキは、作業に取り掛かる。さすが、利家が自分から立候補しただけある。化けタヌキの作業スピードは、めちゃくちゃ速かった。


「よし、みんな、ついていくぞ」


 掘り進める化けタヌキの後を追うように、利家を先頭にして俺達は、穴の中に入って行く。


 穴の中は、しゃがむと通れる大きさだ。ランタンに火を付け、明かりを確保しつつ前に進んで行く。


「すごいな。ちゃんと、崩れないように、柱まで取り付けている」


 それほど、化けタヌキは、穴を掘るのが得意らしい。おそらく、巣作りなどで日頃から穴を掘っているのだろう。


 俺は、その作業をついて行きながら眺めていると、ある疑問が脳裏によぎった。


「なぁ、利家」


「なんだ?」


「利家は、稲葉山城のどこから出るつもりなんだ?」


「あ」


 利家の表情は、まるで間抜けそのものだった。


「まさか、なにも考えずに掘り始めたのか?」


「ま、まさかね。ちゃんと考えているよ」


「本当か?」


「上に掘れば、稲葉山城内だろ? なんとかなる」


 今までの頼もしさが、一気に不安になった瞬間だった。


「利家様」


 化けタヌキの一人が、利家に話しかける。


「どうした?」


「恐らく、今は山の真ん中辺りにいると思います。どの方向に、掘り進めればいいですかい?」


「この、前田という名字を与えられている俺は、前以外の選択肢はない!」


 だめだ。利家は、完璧に開き直っている。自分のキャラを壊してまで、ごり押しで作戦を遂行していこうとしている。


「わかりました。前ですね」


 いや、化けタヌキ、なんかツッコミを入れろよ。そのままで、いいのか?


 俺の不安をよそに、化けタヌキは利家の言う通り真っ直ぐに掘り進んでいく。


「カグヤとロイ、一応戦闘準備をしといてくれ」


「わかった」


 とんでもない所に出される可能性が出て来た。一応、戦う準備をしておこう。


「利家様。もうすぐで、地上に出ます」


「わかった。リン、一緒に出るぞ」


「一緒に出るのか?」


「あぁ、その方が不測の事態にも対応しやすいからな」


 なんか、上手い言い訳をしているが、利家も内心不安なのが、目に見えている。


「ここの土を掘れば、地上です」


「化けタヌキ、ありがとう」


 俺は、化けタヌキに礼を言う。


「いえいえ。利家様、報酬のこと忘れないでくださいよ」


「わかっているって、よし稲葉山城を内側から開門させるぞ! まずは、その第一段階だぁ!」


 利家と共に、土を掘り出し、地上に出た。

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