稲葉山城攻略戦開戦

「あれが稲葉山城……」


 堂洞城の合戦から数日後、稲葉山城にたどり着いた。信長率いる織田軍は、斎藤家の本城である稲葉山城の大きさに驚いている。


「すごいな。山一つが丸ごと城みたいだ」


 俺は、初めて見る城の形に驚きを隠せなかった。山に城があるのは、何度も見たことあるが、山の地形を利用して山ごと城に作り上げる形は初めてだ。


「さて、どうやって、あの城を落とすか」


「落とせるのか、あの城?」


 利家達は、どうやってあの城を攻略するか、考えているようだ。


「ロイとカグヤは、あの城をどうやって落とす」


「あのような城の作り方は、初めてなので、城の構造を知らないとなんとも」


「私も、同じだわ、この城の情報がないと、何とも言えない」


 ロイ達と話していると、信長が大きな筒状の紙を持って、やってきた。


「みんな、待たせたな」


「信長様それは?」


 利家は、早速信長の持っている物に気づいたみたいで、何かを訪ねた。


「これは、稲葉山城の詳細な地図だ。美濃三人衆の三人に協力してもらって、作ってもらった」


「おぉー」


 利家達は、感心したような言葉を出す。


「では、早速作戦を考えよう」


 信長は、地図を広げてみる。地図を見てみると、稲葉山城に付属している砦の名前や城に行く道まで詳細に書かれていた。


「地図だけ見ても、とんでもない城だってわかるな」


 利家は、地図を見て言った。


「天然の要塞そのものだ」


 勝家も、顎に手を当てて地図を見ながら言う。


「確かに、これだけだと、ただの難攻不落の城だ」


 信長は、なにか策を思いついているような口ぶりで言う。


「この城を落とす策があるのか?」


 俺は、信長の方を見て、発言の意味を聞いた。


「この稲葉山城は、一目だけだと難攻不落の城に見える」


「そうじゃないのか?」


「よく、見てくれ」


 信長が、稲葉山城の地図を指でさす。


「なにと言っても、一つ一つ名称がついている砦の名前しか見えないが」


「それが、肝心だ」


 俺は、思考を巡らせるが、全然思いつかない。なにを言っているのだ?


「なるほど、これは城って言うよりは、小さな砦がまとまっている感じですね」


「なるほど、そうじゃったか。わしとしたことが、見落としていたわい。歳はとりたくないの」


 長秀と政秀は、なにかわかったみたいだ。


「どういうことだ?」


「これは、一つ一つが独立している建物なんですよ」


「独立……あぁ、そういうことか!」


 この城は堅牢そうに見えるが、一つの砦を占領すれば、兵力の配置など組み直さないといけない作りになっている。


「野菜に穴が開くと、そこから腐食が始まるのと同じだ。この稲葉山城は、外からの攻撃には強い。しかし、一つの砦が占領された途端、そこからドミノ倒しのように、他の砦が占領しやすくなってしまう」


「そうなると、最初の砦を、どう陥落させるか。そして、陥落させた後、他の砦が立て直す前に次々と打ち破るスピードが大事ですね」


 長秀は、稲葉山城の攻略に必要な要素を二つあげた。


「そう、そこを考える作戦なのだ」


 要点を理解した織田家の家臣達は、みんな黙り込んでしまった。


「弱点がある砦はあるか?」


 一つにでも、脆弱性がある場所があれば、そこを攻め落とせば、あと勢いで他の砦も落とすことができる。


「それは、ないな。美濃三人衆にも、攻略しやすい砦があるのか聞いてみたが、ないという返事が返ってきた。どうやら、斎藤家の先々代である斎藤道山が、この城の脆弱性に気づいて、外側の攻撃で陥落しないように補強と増築をかけたみたいだからな」


 相手も、この城の弱点に気づくのは、当たり前か。


「内側から、開けさせればいいのでは?」


 長秀の案を聞くと、みんな、納得したような顔をした。


「斎藤家の兵を裏切らせるってことだな。いいではないか」


 勝家も、長秀の案に賛同する。


「残念だが、それは無理なのだ」


 信長は、その案を聞いて却下する。


「なぜですか?」


「先の美濃三人衆の裏切りで、斎藤龍興は疑心暗鬼に陥ってしまった。周りには、龍興が信じる者しか置いておらず、龍興が信じられない家臣やそれに率いられている兵は、みな稲葉山城から追い出されている」


「稲葉山城の城内にいるものは、龍興に忠誠を誓う者しか、いないってことですか」


 そうとなれば、裏切りによって、門を開けることは不可能か。


「そうとなると」


 みんな黙りこんでしまう。城の脆弱性も外側からでは突くことができず、内側からの破壊もできない。


「地下通路を使うのは、いかがでしょうか?」


「地下通路?」


 作戦を考えていると、ある男が現れた。


「確か、あなたは」


佐藤忠能さとうただよしだ」


 信長が男の名前を言う。思い出した。可成と加治田城にたどり着いた時、出迎えてくれた城主だ。


「信長様。私の名前を、知っていたのですか?」


「家臣である者の名前を覚えられないで、大名が務まる訳がないだろう」


「さすが、信長様です」


 忠能は、感心したかのように礼を言った。


「それで、地下通路とはどういうことだ?」


 信長は、忠能に地下通路について聞いた。


「はい。稲葉山城は、天然の要塞で、いくつものの砦が組み合わさって、作られております」


 忠能は、広がっている稲葉山城の地図を指さす。


「山城の特徴は、山自体が要塞の役割をしていることです」


「確かにそうだ。まるで。山と戦う感じがする」


「そして、この稲葉山城は道山様の時に行った補強と増築で、難攻不落と呼べるまでの城に出来上がっています」


「そうだな」


「ここで、疑問に思ったことはありませんか?」


「疑問?」


「仮に落城するとしましょう。自分の世継ぎや妻など、非戦闘員は、どうやって逃げるのでしょうか?」


「あ、確かに」


 そのことは、考えていなかった。魔王城にも、有事の際、使用人や客人など非戦闘員が逃げれるように、秘密の脱出口を用意している。


「ここで大名としての斎藤家が滅んでも、世継ぎや一族が存命している限り、再び復活する可能性があります」


「なるほど、この稲葉山城には、その世継ぎや一族を逃すための隠し通路が存在するんだな?」


 信長も、ここまでの説明を聞いて理解したようだ。


「はい。存在します」


「案内役を頼めるか?」


「お任せを」


 忠能は、頭を下げた。


「信長様、地下通路から攻めるんですよね?」


「そうだが、どうした利家?」


「自分の妖怪を使って、新しいルートから攻めていいですかい?」


「利家の妖怪……あぁ、あいつらか。久しぶりに見るな。連れて来ていたのか」


 信長は、思い出したようで、笑みを浮かべた。


「『念には念を』ってね」


 利家の妖怪? 以前、クロヌイの軍と戦う前、『一応いるっちゃ、いるけど使える場所が限られていて』みたいなことを言っていたな。


「作戦は、決まった。別動隊が、稲葉山城の地下通路を使い、城内に潜入。別動隊は、城内に潜入したら、内側から門を開門させよ。その後、城を包囲していた兵は、開門した城の中に突撃して、一気に稲葉山城を攻略する!」


「おおおお!」


 織田家の家臣達は、雄叫びをあげた。

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